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【Column】説明を尽くして人が動かない時、人事は何につまずいているのか

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Topics
Change
Leadership
Published
September 10, 2026
2026.9.11
想定通りには進まない仕組み導入

新しい評価制度やツール、その他仕組みを導入する際、人事主導で説明会を実施することは多いと思います。導入説明会では、出来るだけ丁寧に背景や意図を伝えた。参加者も話を聞きうなずいていた。マニュアルもQ&Aも整備し、いざ運用する段階へ。しかし期待した行動が起きない。反応も悪くなかったのになぜ。人事側ばかりが焦りを募らせるが、現場の行動は変わらない。

タレントマネジメントシステムの導入を担当した際、私はこのギャップに直面しました。そして状況を改善するための打ち手として「もしかすると、資料が分かりにくいのかもしれない」とマニュアルやQ&Aの修正にどんどん意識が向いていきました。説明を重ねていけば解決する。そう信じていました。 

転職一年目、手探りでやってみた2つのこと

とはいえ、資料は増えども想定行動は起きない。悩んだ私は、上司や仲間に相談しました。返ってきたのは「現場の声をもっと聞いてみたら」、「できるところから、小さく動かしてみたら」という助言でした。転職一年目だった私は、その言葉を頼りにとにかく行動を変えてみることにしました。

ひとつ目に変えたことは、マネージャー達へのアプローチです。現場での仕組み遵守のキーパーソンであるマネージャーを集め、感じている不安や懸念、葛藤を率直に話してもらう場を設定しました。「時間が取れない」「わざわざシステム化するのは面倒」など一見ネガティブに映る感情も一旦出し切ってもらいました。すると出し切ったことで「とはいえ、やるしかないよね」という言葉が自ずとマネージャーから発されたのです。

ふたつ目に変えたことは、ベイビーステップの一歩目を人事が担保することです。月1回の全社ミーティングにて、新しいタレントマネジメントシステムに5分だけ触れる時間を持ちました。「まずはログイン」「この項目を入力してみましょう」という短時間の利用体験を作ったことで「これならできるかも」という感覚を持ってもらうことができました。

ボトルネックは、人事の思い込みだったのかもしれない

これら2つの行動は、斬新なものでも、多大な労力がかかるものでもありません。それにもかかわらず、なぜ私はその行動が最初からできていなかったのか。振り返ってみると、人事としての思い込みがあったかもしれません。

例えば、以下のような考えがどこかにあったと思います。
・「仕組み導入を担う自分こそ、誰よりもこのシステムを理解していなければいけない:
 そう思うあまり、準備に時間をかけすぎていました。結果、キーパーソンの声を拾うのが遅れました。
現場の声を聞いた以上は、それに応えなければいけない:
 要望を拾えば、やることがこれ以上増えるかもしれない。その怖さが社員の声を集める行動を止めていました。
きっとシステムの使い方が分からないのだろう:
 現場の実態を知る前から理由を決めつけていました。

どれも、人事として「きちんとやろう」とするがゆえの考えでした。しかし、結果として、人事にとって最も大切な最初の行動である「聞きに行くこと」「場をつくること」を止めていました。仕組み導入が進まなかった要因のひとつは、人事である私自身の前提にあったのです。

この状態は様々な書籍でも言語化されています。例えば、人事向けの書籍には*1人事自身が 「聞く怖さ」 や 「囚われ」に向き合う必要があると述べられています。また、米山知宏氏は、*2プロジェクトを停滞させるのは「見えないメンタルモデル(思い込み・恐れ)」だと指摘しています。振り返ってみると、私は、理性(正しさ・計画)と感性(対話・心理)の両方を扱うべき局面で、明らかに理性側へ傾いていました。社員、マネージャー、人事。それぞれの心理的ハードルが重なっていたのに、それを見ようとしなかった。この点を痛感しました。

別施策でのチャレンジ

そのため、次に関わった健康増進施策の立て直しでは、この経験からの学びをフル活用しました。「社員の健康は会社の資産である」という意図から、当社では腸活飲料支援やジムの法人契約などの施策を打ってきました。一方、その施策活用が一部のメンバーに限定されるという課題にも長年ぶつかっていました。

以前の私であれば、健康意識を高める発信や制度の周知、また利用方法のわかりやすさへの改善ばかりに目が向いたことでしょう。しかし今回は、改定前にまず社員ヒアリングを行いました。すると「契約ジムが生活導線上にない」「別の運動習慣がある」「腸活飲料ではなく、サプリを飲んでいる」などの声が出てきました。私の想定を超えて、利用をしない、あるいはできない様々な理由があったのです。 

そこで、制度の主旨に立ち返りながら判断軸を見直し、適用範囲を拡大した施策見直しを行いました。そして、全社リリース前に見直し案をマネージャー陣に共有する場を持ちました。すると、「その方が社員も利用しやすくなる」「使っているイメージが持てる」とスムーズな協力合意を得ることができました。

制度見直し、といっても実は大きな変更ではなく、適用できるサプリやジムの自由度を少し上げた程度です。しかしこの小さな見直しにより、現在は全社員の8割超が施策を活かしながら、継続的な健康習慣を取り続けられるようになりました。また「これは制度適用されるかな?」などの人事宛問い合わせも増えるなど、小さなチャレンジが生まれつつあると感じます。

人事の小さな1歩は、大きなレバレッジになる

現場の動きが鈍いとき、私たちはつい現場側の課題を探しがちではないでしょうか。しかし最初のひと転がしを止めていたのは、現場側の抵抗感だけではなく、人事である私が、思い込みのハードルを越えられずにいたことでした。これらの経験を通して、人事の働きかけは、運用推進のボトルネックにもレバレッジにもなると感じています。もし今、人事施策が思うように進まない状況に直面している方がおられたら、まずは人事自身がどんな思い込みやそれによる怖さを感じているか、そのハードルを見つめ直してみることも、変化を起こすきっかけとなるかもしれません。  

参考文献: 
*1 吉田洋介『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』(日本実業出版社)
*2 米山知宏『両利きのプロジェクトマネジメント  結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』(翔泳社) 

(Written by Shelly, Brand Enhance Department/Human Development)