2026.8.21
2026年3月にInternational Blind Football Foundation(以下IBF Foundation)様運営主管のGlobal Leadership Camp(以下GLC)内にて、コンテンツを共同開発し半日間のリーダーシップ研修を提供しました。
このコラボレーションを踏まえ、「ブラインドサッカーで人と知恵をつなぎ、視覚障がいに解を出す」をミッションとする国際NGO・IBF Foundation代表理事の松崎様と、弊社代表戒能が対談を行いました。改めて両組織のトップがリーダーシップをどのように捉えているのか、語られた内容をレポートします。
― 改めてGLCの概要と、impactに声をかけた理由を教えてください。
松崎氏:GLCは、世界各国から選抜された視覚障がい当事者の次世代リーダー育成を目的としています。そのプロセスでは、晴眼者と共に学び合うように設計されている点が特長です。今回が3度目の開催になります。impact様には、一部コンテンツの共同開発と運営にご協力頂きました。
私自身、日本ブラインドサッカー協会(以下JBFA)の事務局長として10年前にimpact様の公開プログラム(以下OPEN PROGRAM)に参加しました。そこで、impact様独自の経験学習メソッドの力を強く感じました。それ以降、同プログラムへのJBFAの他メンバーの参加や、JBFAの節目に次世代リーダー向けにプログラムの実施をお願いしてきました。そういった経緯から、GLCにもimpact様のコンテンツを取り入れたいと考え、ご連絡しました。
― 一方で、impactがこの企画に参画した理由は?
戒能:まずリーダーシップとは、誰しもが発揮できるものだと考えています。例えば、新入社員であっても発揮できます。自分の人生を豊かにするうえでも、リーダーシップはすべての人にとって必要ではないでしょうか。
その意味でも、視覚障がいのある方たち、つまり自身の責任に寄らず社会的に不利な立場や環境に置かれている方たちが、自分や他者の幸せのために働きかけ、影響力を発揮していくことには大きな価値があると感じました。それが今回ご一緒させていただいた理由です。
― 今回は、世界6カ国から7名の視覚障がい当事者が参加しました。過去2開催を含めて、オンラインではなく、敢えて対面でプログラムを提供する理由は何ですか?
松崎氏:体験や感覚を共有し、お互いの小さな変化を感じ合う。これに価値があると感じているからです。もちろんオンラインでも場を持つことはできます。しかし、「相手が存在している」というリアリティがどうしても薄い。
プログラム中はもちろん、食事や移動と言った時間も含めて物理的に向き合い、相手の息遣いや体温をも感じる。そこから生まれる微細なニュアンスを含んだ気づきを伝え合う。すると、それに触発されてまた新たな気づきが生み出される。この相互作用が生まれる場や時間は、とても豊かだと思っています。

戒能:私たちは、リーダーシップにはスキルとセンスがあると考えています。前者は「メンバーとどのようにコミュニケーションとるか」や「戦略をどう考えるか」といった知識体系やスキルセットです。これはこれでもちろん必要です。
一方で後者のリーダーシップセンス。例えば、スキルや知識を同じだけ持っていても、プレッシャーのかかる状況で落ち着いて周囲を見渡せる人もいれば、視野が狭くなってしまう人もいます。ロバート・キーガン氏は成人発達理論の中で知性やキャパシティという言葉を使っていますが、日本語では「器」と表現されることもあります。私たちのプログラムの強みは、その器、つまりリーダーシップセンスを磨けることだと考えています。
プログラムでは、組織やチーム活動で直面する困難や重要な概念をメタファーとしたプロジェクトに仲間と取り組みます。もちろん疑似体験なので、安全に失敗できます。しかし疑似とはいえ、実際に難しい問題に向き合い、答えが分からない中で何らかの結論を出す怖さや、部下やメンバーと向き合うプレッシャーを肌で感じます。その中で決断し、行動し、その結果を振り返る経験がリーダーシップセンスを磨くうえで非常に有効だと考えています。

― 今回プログラムには、企業からも8名参加されました。視覚障がいのある方と晴眼者が共に取り組むデザインとした意図はどこにありますか?
松崎氏:視覚障がいは「待ちの障がい」と表現されることがあります。人によっては、生まれた時からさまざまな不利な状況に接してきました。そうした経験が長いと、自ら働きかけるよりも相手から言われるのを待ってしまう。あるいは「見えている人たち」とコラボレーションする時、さらに卑屈になるようなケースもあります。
孤立したり、相手が変わるのを待つのではなく、自分から働きかける。そんな経験ができる場を提供したい。そうして、自分にも相手にも変化を促しながら良いチームを作っていく疑似体験ができれば、彼らの働き方だけでなく生き方にとってもポジティブな機会になると考えました。そのためGLCプログラムのリーダーシップ開発では、晴眼者と共に学び、体験することを重視しました。
戒能:リーダーシップの前提には、変化や変革といった現状変更があります。何か変えようと踏み出す時には、リスクや恐れと向き合う必要があります。そこには当事者特有の恐れもあれば、関わる晴眼者が感じる恐れもあるでしょう。それを自覚したうえで勇気をもって踏み込む。
プログラム内では、それぞれが「こんなこと言って大丈夫かな」と迷いながら発言する場面があったと思います。でも実際に伝えてみると、多くの場合受け止めてもらえる。また一緒にいた仲間が勇気を出す姿も隣で見ることができる。こういった経験の積み重ねが、「踏み込んでも大丈夫」という感覚につながっていきます。
今回は当事者と晴眼者という立場の違いや、国籍・文化的背景を超えて、この「踏み込んでも大丈夫な原体験」の記憶が参加者全員に残ったのではないでしょうか。
この記憶は、プログラム外で人と接する際も、「大丈夫ですよ」「きっといけますよ」と相手に伝える後押しになるでしょう。抽象度を上げると、多様性への受容力が高まった経験と言えると思います。
― 民間企業で働く人にとって「多様性の受容力」が高まることにどんな意味があるのでしょうか?
戒能:基本的に、多様性は組織の遠心力として働きます。ビジネスで言えば、多様な主体をまとめる求心力として、昨今はパーパスやバリューの重要度が増しています。価値観や背景の違うメンバーと協働していると、自分の当たり前が通じないことがある。
多様性がもたらすポジティブな面やクリエイティビティを活かすには、リーダーがその複雑さや曖昧さをうまく扱えることが重要です。現代のビジネスリーダーにとって、多様性を扱える「器」の大きさは大切な要素だと考えています。
松崎氏:IBF FoundationまたJBFAといった非営利活動法人では、メンバーのパーパスへの共感は強いです。一方で、同じパーパスに共感して集まっていても、働く理由や大切にしている価値観、そしてストーリーは一人ひとり違います。実際に組織運営をしていると、その違いに向き合う場面は数え切れません。私にとって仲間が安心して働ける組織づくりは、経営テーマであると同時に人生のテーマでもあります。
だからこそ、リーダーはスキルのインストールだけではなく、センスや器の磨き方を学ぶ必要があるとの話に強く共感します。

― GLC参加者はMy Projectという個別テーマに基づく変革プランを持ち、プログラムを通じてブラッシュアップしていきました。My Projectに関して、印象に残っていることなどはありますか?
松崎氏:まずGLCにおけるMy Projectは、ラーニングプロセスという位置づけです。個別プランの評価は主眼ではありません。力点を置いているのは、彼ら彼女たちが自国に戻ってリーダーとして活躍することです。
印象的なシーンが一つあります。ガーナから参加した視覚障がいを持つ女性は、スポーツを通して女性や障がい当事者の地位向上につなげていきたいと静かに、しかし内なる情熱を込めて語ってくれました。
彼女の描く未来を実現するには、社会的にも文化的にも多くの困難が想像されます。それでも参加者たちからは、彼女の強い気持ちやプログラムで感じた働きかけへの称賛、そして「将来のプレジデントだ」「きっとできる」と力強いエールが数多く送られていました。1週間という限られた期間でも、そこには確かな信頼関係が生まれたと感じました。
今後は、GLCに参加した当事者リーダーたちが、プロジェクト発展をサポートしあえるコミュニティとして育成していきたいと青写真を描いています。
戒能:お話を伺い、やはり哲学の近さを感じました。私たちもワークアウト形式での企業向け次世代エグゼクティブプログラムを提供することがあります。課題に対して事業提案や組織変革の提案などを行おうとすると、アウトプット自体が目的になりかける。でもメインはそこではないんですよね。
ガーナからの参加者のエピソードを聞いて思い出したのは、そのエグゼクティブプログラムでもお伝えする「ソートリーダーシップ」という概念です。まだ実現できるかはわからない。それでも起こしたい変化や目指したい未来がある。だから勇気をもって周囲に働きかけていく。社会に新しい価値を提示し、変化を起こしていくリーダーがソートリーダーです。
そんなソートリーダーに必須の能力は、関係構築力、認知的共感力、課題形成力、問題解決力、変化対応力の5つだと考えています。そしてもちろんスキルは必要ですが、それだけで人がついてくるわけではない。周囲を巻き込み人を動かすのは、「どうしても実現したい」というリーダー自身の強い念い(おもい)だと考えています。
10年前に松崎さんにお会いしたときに強く印象に残ったのも、まさに「社会を変えていく」という強い念いでした。だから私はずっと松崎さんのファンなんです。今回「一緒にやりませんか」と声をかけていただき、乗らない選択肢はありませんでした。
松崎氏:参加したOPEN PROGRAMは2月開催だったので、とにかく寒かったことを覚えています。今でも当時のメモを見返すことがあります。組織運営や自分のリーダーシップについて迷った時などです。
私たちの組織も成長するにつれて、次の世代にどうバトンを渡していくかが大きなテーマになってきました。経験学習によって自分自身で見出した学びは、その場で終わるものではありません。後になって何度も立ち返ることができる「リマインド」になると感じています。
戒能:プログラムに参加された皆さんに「ちょっと勇気をもって一歩踏み込んだ」感覚が残る。その経験は、職場や日常に戻った後も残り続けます。私たちは知識や単なる体験ではなく、「次はこうしてみよう」と思える記憶や、チャレンジを後押しする資産となる原体験の場をこれからも作っていきます。
改めて、今回は私たちスタッフにとっても記憶に残る素晴らしい機会を創り出していただき、ありがとうございました。
― IBF FoundationそしてJBFAのリーダーとして、ブラインドサッカーを通じて人や企業、団体を繋ぎ、視覚障がいという社会課題に解を出す取り組みを続けている松崎氏。NGOと民間企業という違いはあれど、リーダーシップに対する哲学やその育み方において大切にしている考え方など、多くの共通項が見られた対談となりました。

IBF Foundationの取り組みはこちらから:IBF Foundation
GLC実施レポートや参加者の後日インタビューなどはこちらから:VISI-ONE Innovation Hub(ビジワン・イノベーションハブ)|note