2025.6.17
とあるクライアントから、業績向上のための組織づくりに関するご相談を受けました。その内容は、業績管理の仕組みや営業プロセスの見直しなど、複合的な課題を含んでいましたが、リサーチの結果、会議にかけている時間に比べてアウトプットが著しく少ないことが判明しました。特に営業メンバーが関わる会議は、営業戦略会議、業績進捗会議、案件会議、重点顧客会議など多岐にわたっていました。それらの会議に投入されている時間や概算人件費といったコストに対して、意思決定の数は少なく、案件開拓やステップの進捗も芳しくない状況でした。
本件に限らず、必要があって設定しているはずの会議を経ても、なぜ成果に繋がらない事態が起こるのでしょうか。またなぜ多くの会議において、誤解を恐れずに言えば「形だけの参加」が起きてしまうのでしょうか。
よくあるケースとして、「情報共有が目的化される会議」があります。共有自体は、事前のテキストコミュニケーションやシステムへの入力で十分に可能です。しかし会議が設定され、アジェンダに「共有」の時間が設けられる。それにより、時間を埋めるために共有内容を考えることが起きます。他者の共有中、他メンバーはそれを漫然と聞く時間になります。その結果、各自の営業アクションに関することよりも、個別事情を聞く時間が長くなります。そして参加者は、自分の発表をつつがなく終わらせることに終始し、会議後には「やっと終わった」と通常業務に戻っていく。これでは、投入したリソースに対してアウトプットが少ないのも無理はありません。
かくいう私も、その状態になった経験があります。自分の担当個所の発表だけ早く終わらせたい、下手なことを言って詰められたくない。そんな気持ちは、身に染みてよくわかります。よくわかるからこそ、この事態に陥ることを防ぐべく、私たちチームはいくつかの工夫を取り入れました。
チーム会議の3つの改革
以前の経験をもとに、私たちの部署「Business Consulting Department」では、3つの会議体改革を行いました。具体的には、①部署会議の頻度と所要時間を減らし、②それに適応できるようコミュニケーションガイドラインを定め、③個々人をサポートする別の枠組みをつくる、という改革です。以下に詳細をご説明します。
まず、週次で実施していた部署会議の頻度を月1回に変更しました。それまでの会議では、全員で毎週30分間、案件の進捗確認や成功事例のTIPS共有を行っていました。しかし案件管理システムをアップデートしたことにより、入力が正確であれば、進捗管理のため集まる必要がなくなりました。そのため、部署会議は月1回の開催となりました。開催頻度は減ったものの、月に1度チーム全員が集まる場では、案件ではなく、戦略の進捗を確認すると同時に、推進のための行動改善について対話する時間を持つことができています。
とはいえ、週1の会議を月1にして回数を減らすだけで、会議の生産性が上がるわけではありません。少ない会議時間の中で、必要な意思決定を行うことができるよう、ルール決めをしました。これが二つ目のコミュニケーションがガイドラインの制定です。弊社では、ミーティング・スタイル・ブックというツールを活用しています。このガイドラインに沿って、主催者も参加者も適切なコミュニケーションスタイルを認識したうえで、会議に参加することを求めています。
例えば、意思決定を目的とした会議では、意見をPREP法で端的に述べる等を定めています。こう聞くと、当たり前すぎる、目新しさはないと感じられるでしょう。ただし、時間がかかる割にアウトプットが少ない会議の背景には、会議の目的と適切なコミュニケーションスタイルに対する参加者間の認識の齟齬があると考えています。会議時間を無駄なく活用するには、全参加者による前提の共有とスタイルの実践の徹底が必須です。過去の会議を振り返ると、意思決定や運用の具体的調整をすべき会議で、参加者が次々と所感を述べあい、何も決まらないまま時間が過ぎていたこともあります。全員の認識揃えとスタイルの徹底は容易ではありませんが、毎回意識的に確認し、逸脱を指摘し合い、続けていくことで、この点を克服しつつあります。そうすると、会議内に決定事項が収まる感覚がチーム全員で掴めるようになってきました。
そして最後に、これまで会議内やその前後の個別相談で吸収していたような個々人の悩みや困りごとをサポートする新しい仕組みを設定しました。それはマネージャーによる全メンバーとの週次の FORECAST 1on1(ワン・オン・ワン)の設定です。1on1の時間は、毎週30分。短い時間だからこそ、明確なアジェンダを設定し、論点がずれないよう、また個々の営業としての不安や悩みが解消されるよう、マネージャーが向き合ってくれています。導入当初は、なんとなくのお悩み相談の時間として徒然に話して、あっという間に時間が終わることもありました。こちらもミーティングの目的確認やアジェンダの再設定などを経て、今は短い時間内で、具体的な実践の振り返り、内省を行い、1on1後のネクストステップが明確になる時間となっています。
会議体の変更によって生まれた意識と行動の変化
このように、会議体の頻度を変え、目的や参加者のコミュニケーションスタイルを明確にしたことで、私自身のクライアントパートナーとしての行動にも2つの変化が生まれました。
ひとつ目の変化は、以前よりも複数の行動の選択肢が視野に入るようになったことです。これは、1on1においてマネージャーがリッチな行動の振り返りの時間を提供してくれたためです。以前の私はクライアントから何かしらの反応があると、「きっとこうに違いない」と相手の認識を確認する前に反射的に思い込んでしまうことがありました。その結果、次の一手が無意識のうちに制限されていました。しかし具体的な事象について、マネージャーから「本当にそうなのかな?」と問われる機会が増えました。そうすると「もしかすると思い込みかもしれない」「だとしたら、他のアプローチも試してみよう」と俯瞰してものを見るきっかけをつかめるようになりました。
二つ目の変化は、行動に対する迷いが減ってきたことです。1on1後に新しい選択肢に取り組んでみる。そしてすぐ翌週に振り返りとフィードバックを受けるPDCAサイクルが定着しました。悩んで足を止めるのではなく、実際に行動することで、チャレンジの回数が増え、振り返りの材料が増える。そこからマネージャーのサポートを得て、抽出できる気づきや学びの質が徐々に向上しています。そうすると、次の行動に自信をもって取り組めることが増えてきました。
私含む他メンバーに生まれた小さな兆しや成功事例は、1on1の議事録を共有することでチーム全体にもオープンにしています。すぐに成果に繋がるとは限りませんが、他のメンバーのチャレンジや壁を乗り越えた事例に触れることで、チーム全体が学び合う仕組みとなっています。これらチーム会議体の改革は、本来の会議目的である「終わったら即アクションが取れる状態づくり」をメンバーにもたらしていると感じます。各会議は、自分のための時間である。やり過ごすことが目的化する会議では、この「自ら行動を起こすための支援となる時間である」という参加者の、あるいは場合によっては主催者の認識の薄さが原因なのではないでしょうか。
以前、社内講習にてファンクショナルアプローチ研究所の横田先生が、改善の観点として教えてくださった言葉があります。それは「誰のため何のため」から、本来の機能価値を考える、というものでした。誰のため何のための会議なのか。かつては機能した会議体でも、今の状況やメンバーで価値を出せているのか。仕組みを過信するのではなく、どうやって効果的に私たちは運用できるのか、効果的に運用するための仕組みはこれなのか。常に立ち戻りながら、トライし続けたいと思います。
参考文献
・熊平美香(2021)『リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
・中原淳(2010)『職場学習論:仕事の学びを科学する』、東京大学出版会
(Written by Coco、Client Partner)