2026.3.12
KPIドリブンの落とし穴と「見直し」の重要性
「こういうのあったらいいと思うから作ってみてよ」そんな上司の依頼を受け、仕上げてはみたものの、結局社内で使われないままツールだけが放置されてしまう。残念な仕事の典型例です。
依頼された側も「これは本当に使われるのだろうか?」と違和感を覚えながら進めているケースもあるかもしれません。日々さまざまな業務に向き合う中、疑問を抱きつつも突き詰めて確認することなく、「上司が言っているのだから必要なのだろう」と自分を納得させてやっている。そんなことはありませんか。
抽象度を上げると、これはKPIドリブンな組織が陥りやすい構造と似ているかもしれません。KPIを設定して目標が具体的かつ明確になることには、効率を上げ、前進する力を加速させるメリットがあります。一方でメンバーは、具体的な目標に目線が向くことで視野が狭くなるデメリットもあります。結果として「作業者」のような状態に陥ってしまう。
そして、この時KPIの設定が少しでも誤っていると、KGIにつながらない業務に「良かれと思って」時間を費やしてしまうリスクをはらんでいます。OKRの提唱者ジョン・ドーアは、著書で『誤った指標は組織を誤った方向へ導く』と指摘しています。つまり目標管理は「目標を設定した瞬間」に価値が生まれるのではなく、「正しく見直し続ける」こととセットになって初めて意味を持つと言えます。
冒頭でお伝えしたような、目の前の用事を片付けることに終始してしまう、悪意なきやっつけ仕事が生まれる背景には、この「見直しの欠如」があるのではないか。過去、私自身がやっつけ仕事に陥りかけた経験をして、より強くこの点を感じています。
自身のMBO-Sで気づいた「やっつけ仕事」の兆候
弊社では、半期に一度各メンバーにMBO-Sが設定されます。これは、会社の目指す戦略を部署の戦略に分解し、また戦略の実行を下支えする組織機能の強化を目指す形で設計され、アサインされます。
クライアント組織と対峙する部署に所属する私に割り振られたのは、ある業務メインツールの活用を促進するようなTIPS集の作成でした。メンバーの仮説提案力を上げ、クライアントへのお役立ち度合いを上げる。そのために、チームメンバー全員が仮説の精度を上げることが目的です。このアサインを受けた私は、上司と評価基準や納期、ゴールイメージなどを握り、早速作業に取り掛かりました。
まず取り掛かったのは現状把握です。各メンバーの課題仮説設定や検証、修正方法をヒアリングしました。当初想定では、ここで出てきたそれぞれのコツをまとめて、メンバー間で共有することに価値があると理解していました。一方でヒアリングを進めていくと、ある事実が明らかになりました。それは、メインツールの運用自体にばらつきがあり、活用が不十分になっている状況でした。
ここで思い出したのは、クリステンセンの「ジョブ理論」です。曰く、「人は進歩(Job)を達成するためにツールを雇うのであり、ツールがそのJobを満たしていなければ使われない」。まさに今のメインツールがこの状態になっており、「仮説の精度を高める」という課題と、「TIPS集をつくる」という解決策がフィットしていない状況があると気づきました。
ここで一つの迷いが生じます。それでも今回のヒアリングで集まった事例をまとめれば、それらしいTIPS集を作ることはできそうでした。評価につながるMBO-Sも期日通り完了できそう。これまでかけた時間も無駄にしたくない。しかし、このまま突き進んで作るアウトプットはまさに「ツールをつくるための仕事」、やっつけ仕事そのものでした。
悩んだ末、これまでのプロセスを一旦中断し、期中にMBO-Sそのものを変更してもらうよう上司に申し出ることにしました。TIPS集をつくるよりも、メインシートそのものを正しく運用できるよう改定する方が、本来の目的に寄与すると判断したからです。
上司の合意を取った後は、メインシートの改定にタスクを切り替えました。考えるべき項目、記載する情報の見直しと再設計を進めました。シートを作る目的は、クライアントとの関係性を進展させ、より役立つパートナーとなれるような構想を描くこと。そうした改定の結果、メインツールの運用と本来の価値発揮が随所に見られるようになっていきました。
振り返りで気がついた、組織カルチャーの重要性
もちろん「タスクを前に進めてしまいたい」という気持ちや、MBO-S完了へのプレッシャーは、私の中にも確かにありました。しかしそれらに流されず、立ち止まることができた理由について今回改めて振り返ってみました。そこには、自社で継続的に伝えられているプリンシプル(行動原則)があったように感じています。
弊社では約2年前にバリューを改め、プリンシプルを制定しました。そしてRECOGというツールで日常的にプリンシプルを体現した行動を仲間内で認め、称賛するレターが飛び交っています。今回私を支えてくれたのは、「目の前の人でなく、二歩先の相手の役に立つ」というプリンシプルでした。忙しさから、タスク処理へと視座が下がりそうになった時、「今やっていることが、本当に役立つのは誰なのか?」という問いがたち、上司に進言する際の強い支えとなりました。
成果につながらないのでは、とうすうす感じていても立ち止まれない。人間の意思だけに頼ることには限界がある。だからこそ、行動原則を日常に浸透させ、組織文化として全員がそこに依拠できる状態にする。規範があるからこそ、忙しさに流されず立ち止まり、目的に立ち返る勇気を持てる。今回の経験を通じて、私はその仕組みの力を強く実感しました。
バリューやプリンシプルがどのくらい社内に、日常に浸透しているか。またその内容が「前に進む力」だけでなく、「立ち止まる勇気」を与えるものになっているか。このような観点を振り返ってみることは、成果につながる組織をつくる近道になる。今回の経験を持って改めてそう感じています。
参考文献:
・ドーア,J.(2018)『Measure What Matters(メジャー・ホワット・マターズ)――伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR』日本経済新聞出版社
・クリステンセン,C. M.,ホール,T.,ディロン,K.,ダンカン,D. S.(2017)『ジョブ理論――イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ・ジャパン
(Written by Baya, Assistant Manager, Business Consulting Department)