2025.4.30
インパクトジャパンのインターンシップ「BACKSTAGE(バックステージ)」。
「BACKSTAGE」とは、あしなが奨学生である大学2年生以上を対象としたプログラムです。弊社が取り組む、1)若者支援団体への寄付、2)団体から支援を受ける若者への研修のプロボノ提供という、「リーダーシップ・エコシステム®」の一環として取り組んでいます。若者が社会人としてのスタートをスムーズに切れるよう、「活躍しているビジネスパーソンのやりがいやジレンマを舞台袖から観ることで、社会人の先取り学習をする」ことをねらいとしています。
本コラムは、2024年度BACKSTAGE参加者の川内智大さんがその気づきと学びを綴ったものです。
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対立は悪いこと?
多くの人は、なにかしらのチームで活動した経験があると思います。例えば、授業でのグループワーク、部活動、文化祭や体育祭の実行委員、あるいはゲームなどもチーム活動と言えます。そして、チームで活動する際には必ず目的があります。部活動であれば大会で優勝すること、またゲームであれば仲間と協力してラスボスを倒すこと、など他にも様々です。
私はBACKSTAGEインターン生として、社会人の皆さんがチームで課題解決に取り組む姿の一部始終をオブザーブする機会をいただきました。そこで起こっていたことには、これまでのチーム活動で私がぶつかった壁とも共通する点がありました。それは、チーム内で意見の対立があったことです。
正直にお伝えすると、インターン参加前、私は意見の対立はチームの進行を妨げると考えていました。なぜなら自分がやりたいことをチームに伝えた際に、反対のコメントが出ると、スムーズに物事が進まないと思っていたからです。しかし、今回研修をオブザーブしていく中で、意見の対立は目標達成の助けやヒントになると気づきました。
なぜ意見の対立がチームに必要なのか
私がオブザーブしたプログラムには、現実に仕事をする中でも直面する様々な場面をメタファーとしたプロジェクトが用意されていました。単純・困難・複雑・混沌、そして無秩序といった、いわゆるクネビン・フレームワークにあるような状況です。原因と結果の関係性が不明確かつ、予測もできないような状況に次々置かれながら、課題に取り組む。その中では、リーダーとメンバー同士で、意見が必ずしも一致するとは限りません。
実際に参加された皆さんからは、プロジェクト中、あるいは振り返りの中で「今何をすべきかわからない」、「これを先にやるべきだったのではないか」といったコメントが出ていました。そして、現実に起きていた行動と、参加者の方の振り返り時のコメントを突き合わせていくと、そこに想いの違いがあったのだと気づきました。
日本人は意見の対立を避ける傾向があると言われます。本音を言わずに「空気を読む」ことが重視され、表面的な合意が優先されてしまう。特に、ゴールや向かう方向性が見えない中で、なんとなくメンバー同士、チームの「空気」を読んでしまう。するとリーダーの言うことに対して「納得はしていないが、仕方ないから動く」や「意味も分からず、ただ動く」ことが起きてしまう。私も学生募金のチーム活動をリードする中で、この事態を経験しました。そして、メンバーが納得しないまま行ったタスクの遂行が不十分で、リーダー役の私に仕事が集中しました。それを注意されたメンバーは、やらされ感を強めて不満を募らせる。そしてまた私に負荷がかかる。そんな負の連鎖に陥ったことがありました。
意見対立を成果に導く3つのヒント
しかし今回のオブザーブで、意見対立がチームの停滞を生むものではなく、現状打破や成長の契機となったシーンをいくつも見ました。また対立を価値あるものに変えるには、適切なアプローチが必要だとも感じました。意見対立を単なる衝突で終わらせず、チームの発展につなげる。今回参加された方へのインタビューも経て、ヒントになると感じた点が3つあります。その中には、以前の手痛い経験から気を付けていた点もあれば、今回初めて気づいた点もありました。
①意見対立を「課題解決の出発点」として捉える
過去に私が参加した活動内で、メンバーと意見が対立した際、よくよく確認すると、私と相手の活動目的が大きく違っていたことがありました。また今回、インタビューさせて頂いたリユース事業などを手掛ける企業の営業部長の方は、『仕事において「誰かの役に立つために」という観点と「ビジネスとして活動する以上、利益のために」という観点を同時に持つ必要が出てくる。そこに個人としても、チームとしてもジレンマが生じることがある』と話してくださいました。それらは、常に対立するわけではないにしても、難しい判断を迫られることがある。それでも、共通の目的に向かい皆で進むためには、意見の違いを出発点として、双方の見方を整理する。そうした意見を交換するプロセスを通じて、結果的に良い方向に持っていくことは可能だと感じました。
② 「なぜ?」を問い続ける姿勢を持つ
こちらも、過去の活動以来、気を付けている点ですが、私は意見の対立があったときは、相手に「なぜそう考えたの?」と聞くようにしています。きちんと尋ねてみると、相手もただ感情的に言っているのではなく、失敗経験からの懸念の表明だったり、承認してほしいという気持ちだったり、様々な背景がありました。相手の背景を理解することが、表面的な対立ではなく、問題の本質に一歩近づくヒントであると感じています。今回の社会人の方々によるチーム活動内でも、意見が対立した瞬間、一時的に停滞や混乱が生じているように見えました。しかし、皆さんは対立を避けるのではなく、対話を重ねていきました。そしてお互いの考えの背景を知り、主張の理解を深めたことで、より良い解決策が導き出されていきました。そうして、最終的にチームとして一つの結論にたどり着く。すると、そこには「やらされている」ではなく、「自分たちが納得して決めた」という感覚が生まれているように見受けられました。これは、対話を経たからこそ、たどり着けることだと感じました。
③ 異なる視点を受け止めるチーム文化をつくる
また今回のプログラムに参加されていた方々は、積極的に異なる視点を取り入れる姿勢を持っていたことにも気づきました。誰かが意見を言うと、チームメンバーが頷く。さらに少数意見を拾って今後に生かそうとする発言も見られました。意見が違うことを否定的に捉えるのではなく、新たな視点を得る機会として前向きに受け止める。すると多様なアイデアが生まれやすくなっていました。いつも間違えない、完璧なリーダーもメンバーもいない。だからこそ、「リーダーだから」「メンバーだから」と思考停止して相手の意見を鵜吞みにするのではなく、お互いにわからないことを聞きあう。違う視点を尊重する。そんな文化があると前進できると感じました。
意見の対立の先にあるもの
最初に述べたよう、オブザーブする前、意見対立はチームの進行を妨げるものだと考えていました。しかし意見の対立があったからこそ、今回のプログラム参加者の皆さんは、単なる多数決や感情的な判断ではなく、「なぜこの選択をするのか」「私たちは何を優先すべきか」といった問いを再度チームで考える機会としていたように感じました。
チーム形成には複数の段階があり、「混乱期(Storming)」があるそうです。真の信頼や協働は、この衝突を避けずに、仲間と共に乗り越えることでしか生まれない。対立を通じて互いの価値観や考え方を知り、ぶつかり合いながらも、次第に方向性をすり合わせていく。そうすることで、単なる個々の意見の集まりではなく、多様な視点を統合した「組織としての意思決定」が生まれ、次第に組織として成果があげられるようになっていくのだと強く感じました。
「個人」よりも「チームや組織」のほうが、より大きい成果を生みだすことができる。そして、組織が成果を生み出すプロセスの中で、メンバー間の意見対立は不可避であり、また組織の意思決定の質を高めるために不可欠なもの。衝突を乗り越えた先にこそ、本当の達成感や一体感がある。私は今回のオブザーブ経験を通して、対立を恐れるのではなく、それを受け入れ、活かすためのヒントを得ました。将来、どんな組織で働くことになっても、意見の違いからチームと共に学び、より良い答えを見つけていく。そんな姿勢を持ち続けたいと思います。
参考文献:
野田智義、金井壽宏 (2006)「リーダーシップの旅 見えないものを見る」光文社新書
d’s JOURNAL .「タックマンモデルとは?チームビルディングの5つのステップと活用方法を解説」(2023)https://www.dodadsj.com/content/20230531_tuctkman/ (参照 2025-4-16)
(Written by 川内智大、BACKSTAGE3期生)