2025.11.19
「Woody自身はどうなりたいんだっけ?そろそろ目を背けずにもっと具体的に言語化してみたら?」
これはある日の1on1で上司から言われた一言です。この言葉を聞いた時、「やっぱりそうだよな…」と痛いところを突かれた気持ちと、「そろそろ向き合わないとな」と腹を括った決意のような気持ちが入り混じっていました。
このコラムはマネジメントの行き詰まりを感じていた私自身の経験談です。皆さんの身の周りで、あるいはご自身において、こういった状況は起きていないでしょうか?会議、数値管理、部下との面談・・・管理職に必須と謳われるマネジメントアクションは抜かりなく、手を抜かずにやっている。それなのに、一向に部下の行動が変わらない。結果として部署の仕事の質が高まらない。この状況をどのように打破していったのか、私の経験が少しでもお役に立てればと筆を執っています。
アリバイプレイ的なマネジメントをしていた
営業部署でマネージャーに昇進した1年後、現部署に異動が決まり2年が経ちました。異動後の1年は以前のコラムでお伝えしたよう、ある程度の手ごたえを感じながら、プレイングマネージャーとして邁進していました。しかし日々がむしゃらに忙しく働いている中で、徐々に変化を感じられなくなり、成果が見えにくくなってきたのです。今にして思えば、気付かぬうちに3つの罠に囚われてしまっていました。
- 役割意識の罠:以前の私は、マネージャーは「こうあるべき」「こうしなければいけない」という、誰かが決めたマネージャー像を追い続けていたように思います。新しい部署で成果を出さなければ、という責任がそれを後押ししていたのかもしれません。
- 経路依存の罠:新しい部署は一から組織をつくるのではなく、既存組織を引き継ぐ形でマネジメントをスタートしました。メンバーも、組織のミッションやビジョンもすでに在る状態。“引き継ぐ”という状況が、知らぬ間に①の罠を強固にしていたと感じています。
- 自主自立の罠:「自分の部署のことは自分が責任を持ってやらないと」という、よく言えば「自主性と自立性」を責任と捉えていた私は、他人に頼らずに進めることを当たり前と思っていました。他部署のマネージャーとの接点は少なくないものの、自分のマネジメントに対する相談をすることはなく、結果として視野狭窄になっていたのです。
こうした3つの罠が「必要なマネジメントアクションはやっている」という認知を後押しし、いつの間にか「自分はちゃんとやっているのに、部下が変わらない」そんな他責思考を生んでいたように思います。振り返ってみるとアリバイプレイ的なマネジメントでした。
加えて、短期的な成果が出ていたことがむしろ逆作用となり、変化を阻む障壁になっていました。特に自部署は、研修をデリバリーするという領域で品質担保が求められる業務特性があり、品質のバラつきは目下の課題でもありました。誰が提供しても、どの研修においても同じ業務品質を出せるよう、再現性がマネジメントの重要な要素と捉えた私は、仕組みや構造を徹底的に効率化していきました。それによりミスやトラブルが減少し、研修の満足度は上昇傾向。周囲からも「チームが変わったね」といった評価をもらうことで、「自分の方向性は間違っていない、きちんとやれている」という認知に拍車がかかっていました。
その結果、私のマネジメントは、ルーチンに偏重してしまっていました。本来であれば、効率ではなく効果が大切な部下とのかかわりまで、今にして思うとルーチン化していました。それまでに出ていた成果は業務プロセスを変えたことの結果であり、部下の仕事観や取り組み姿勢には大きな変化がなかった。それにもかかわらず、自分の正しさを信じて、手ごたえのないマネジメントアクションを取り続ける。そこには明らかな行き詰まりを感じていました。
転換点となった2つのアクション:内面的自己認識の高まり
この状況の打破に一番効いたのは「状態ゴールの描き直し」でした。これによりマネジメントアクションの解像度が高まり、部下へのかかわり方が変わり、結果として部下の行動を変えることにつながりました。
キッカケとなったのは、冒頭でお伝えした上司との1on1でもらった強烈な一言。インパクトでは4WDという施策があります。全社員が1年に1度、自分自身の夢やビジョンを描き言語化します。4WDとは、For Wish & Dreamの略で、「impactを器として使う」という考えに基づいています。またこの名前には、どんな悪路でも4WDを頼りに乗り越えていくという意味も込められています。
当然、私自身も4WDを書いていました。しかし目指していたファシリテーターという職務に就き、今の仕事に満足している状態で書いた4WDは、その先に目指すものがぼんやりしていました。自覚はあったものの、目の前には課題が山積していることから「そのうち見えてくるだろう」と考えることを後回しにしていた。そのことを上司に突き付けられたのです。自分のマネジメントの行き詰まりを感じていた私は、直観的に「これだ!」と思い、すぐに2つのアクションを起こしました。
1:自分のビジョンの描き直し
前述の通り、私も4WDは描いていました。しかしそれはビジョンというには遠い、パーパスのような抽象的な表現ばかりでした。例えば、以下は実際に私が書いていたビジョンの一部です。
- Facilitatorとして固有の強みを持っている
- 外部から求められるだけの市場価値を持った人材になっている
この先の自身の成長を目指すには、今まで以上の困難を越えていく必要があるとは理解していました。しかしだからこそ、学習不安から具体化するのを無意識に避けていたのだと思います。
改めて自分と向き合い、たくさんの問いを思い浮かべました。「できる・できない」を一旦脇に置いて考えた時、やってみたいことはないだろうか?ぼんやりとしたビジョンでも、それに向かうため本当に必要な経験は他にないだろうか?いつかそのビジョンを果たすとしても、次の1年で何がどこまで進めば近づいたと言えるのだろうか?まずは時限を決め、具体的に自分がこの先1年で「どうしたい」のか言語化してみました。すると、これまでのビジョンとは明らかに表現が変わっていきました。
- 1年以内に自部署でDirectorを担う
- 新しいセッション、新しいレビュー、新しいデザインを自分でつくる
これが、結果的に私自身の覚悟を決めることとなりました。
2:チームのミッション・ビジョンの再定義
こうして自分のビジョンがクリアになると、今の組織のミッション・ビジョンが前任者によってつくられたものであることに違和感が出てきました。内容自体に疑問があったわけでもありませんし、心から共感もしていました。ですが、あくまで前任者から「引き継いだ」ものだったため、改めて自部署をどうしていきたいのか、自分の言葉で定義し直しました。
これら2つのアクションが、マネージャーとしての私にブレイクスルーを起こしました。自分がどうありたいのか、そしてどんなチームでありたいかという判断軸が明確になったことで、部下への称賛も叱責も、フィードバックの瞬発力が高まったのです。
これまでは繁忙から「後で確認しよう」「手が空いたら伝えよう」と後回しにしていた部下へのフィードバック。今ではたとえファシリテーターとして登壇している日であっても、内容によっては隙間時間にすぐに伝えるようになりました。また以前までは「それ前に伝えたのに」と、一度話して終わっていた指摘も、部下が行動を起こすまで何度も確認する粘り強さが出てきたと感じています。その関わりにより「言ったのにやらない」という状況は減っていき、決めたことをやる、という凡事徹底の文化がチーム内で少しずつ醸成されてきたように感じます。
チームとしての行動変化を大きく感じたのは、トラブル発生時の報告です。以前は現場でどうにか収め、落ち着いてから事後報告が届くことも。今では、発生後に速報としてすぐに情報共有することが当たり前となりました。報告に抜け漏れがあると、メンバー同士で指摘するような行動も増えてきました。マネジメントのスタンスが、チームメンバーのスタンスに大いに影響を与えていると感じる出来事でした。このように2つの状態ゴールをありありと描き直したことで、私のマネジメントの質が変わったのです。
「本当にやりたいこと」を言語化できる人は多くない
自分の状態ゴールの解像度が上がったことは、部下のビジョンを確認する際にも活きました。弊社では仕組みとして必ず社員全員が4WDを書き、更新していきます。自分のビジョンを描き直したあとに、改めて部下の夢やビジョンを見返してみると「I want」があまり明確ではない事に気付いたのです。
ぼんやりといつか遠くの夢は描いているものの、自分が何をしたいのか、自分がどうなりたいのか、ほとんどのメンバーの4WDは解像度が粗い状態。以前までの私であれば、粗いと気づいていても、そのまま面談を進めていたでしょう。しかし部下が本当に達成したいと思っている夢やビジョンがどんなものなのか、今まで以上に踏み込み確認をするようになりました。時にはその面談は1度では終わらず、繰り返し何度もその話題に触れ、対話を続けました。
面談で意識したのは「できる・できないは外して、何でもやっていいとしたら、何がしたいのか?」といった制限を外すような問いを投げかけ続けることです。ビジョンを描く際には無意識のうちに「達成できそう」なことに絞り込み、実現可能性のフィルターを通してしまう。それは私自身が身をもって体験したことでした。
「目標を持て」と言葉で言うのは簡単です。またビジョンや目標は、ないよりもあった方がいいと誰しも理解している。それでも描くことへの不安や、目の前の業務に追われ今は重要でないと後回しにして、結果的にそれっぽいことを書いて終わりにするような状態は、誰しもに起こり得るのです。
もしあなた自身が同じようにビジョンを描き直してみる、あるいは部下の描き直しをサポートする時には、『セルフ・アウェアネス』*に書かれているいくつかの問いが役に立つかもしれません。
- 自分が将来、選んだキャリアで大成功することが決まっているとすれば、いまあなたが就きたい仕事は何だろうか
- あなたが他人の立場で自分にアドバイスするとすれば、キャリア選びについてどんな提案をすると思うか
一例ではありますが、こうした問いを投げることで心の中の枠を外し、真剣に自分と向き合うことを助けます。そして新たな自分の念いに気付く第一歩となります。
組織心理学者のターシャ・ユーリック博士によると、多くの人は自分のことを自分で「わかっている」と思い込んでいるが、実際に自己認識が高いのはわずか10~15%に過ぎないとの指摘があります。建前ではない、心からの「I want」を明らかにするのは容易ではないことがここからも分かります。だからこそサポートが必要なのではないでしょうか。
いかにして自分を見つめ直す機会を、「周りを巻き込み」つくるか
忙しさや様々なコンテクストの中で目の前の問題解決に追われ、マネージャーとして「何をするか:What」ばかり考えていた私が、「なぜそうしたいのか:Why」を明確にした。するとアクション自体は変わらずとも、「どのようにやるのか:How」が変わっていった。今回はそんな経験をコラムにさせて頂きました。
私のマネジメント転換点は、上司との1on1がはじまりの一歩でした。立ち止まり、客観的に自分を見つめ直す。PAUSEする機会は様々なやり方があり得ます。同僚同士で相談できる仕組みや場づくり、またはナナメの関係を活かした面談設定、もちろん上司との1on1も良いでしょう。
そうして見つめ直した自分の念いについては、言語化することを強くお勧めします。言葉にすると、どれくらいの解像度の高さで描けているか見直すことができるからです。状態ゴールをありありと描くこと。きっとその言葉は今悩んでいる皆さんの背中を押してくれる。そう信じています。
*参考文献:
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編(2019)「セルフ・アウェアネス」、ダイヤモンド社
(Written by Woody、Manager/Client Success Department)