2026.7.10
企業のサステイナビリティ活動は、SDGsが制定された2015年以降、急速に広がりました。一方で、活動の担い手がサステイナビリティ部門や一部の社員に偏り、なかなか裾野が広がらないという悩みを耳にすることがあります。
もちろん社会的意義は理解されている。けれども参加者は増えない。一部の積極的な社員とそれ以外の大多数という構図になっており、社内には「我関せず」の雰囲気が漂っている。企画担当者として、もどかしさと「そんなもんかな」という諦めの気持ちが混在している。そんな方も少なくないのではないでしょうか。実は、私自身も同じ壁に直面してきました。
弊社では2019年から、リーダーシップ・エコシステム®(以下、LES)という活動を展開しています。困難な環境にある若者を支援する団体への売上総利益の1%寄付と、当事者である若者向けにリーダーシップ研修のプロボノ提供を継続してきました。組織・人材開発を生業とする企業だからこそ、自社の専門性を活かしてできる社会課題へのアプローチ。草の根で、きめ細やかな支援を行っていくNPOとは異なる形で若者が自ら未来を切り拓く力を育む支援ができる。その考えの下、7年間で合計24回、延べ255名の学生に対して研修を提供してきました(*1)。また2024年度には、LESの取り組みが文部科学省「いーたいけんアワード」を受賞する機会にも恵まれました。
順風満帆に進んでいるように見えますが、実はある問題がありました。プロボノに関わる社員の顔ぶれが、ある程度固定されてきたのです。専門性を活かして社会に価値を提供するという「よいこと」をしているのは伝わっているはず。でも、社内に活動の輪を広げることは難しい。改めて振り返ると、企画・推進部署である私たちが、ある思い込みを持っていたことが分かってきました。
活動を小さくしていたのは、企画側の思い込みだった
一つ目は、「社会にとって価値がある活動なのだから、当然社内の共感は広がるはずだ」という思い込みです。活動を推進する立場にいると、日々社会課題と向き合い奮闘するNPO職員の皆さんや若者たちの話に触れます。その度に、「もっと力になりたい」という思いは強くなります。
しかし、LESの促進は私たち部署にとっての主業務であっても、他部署の社員にとっては「主業務あってのプロボノ活動」という位置づけです。実業務をキッチリとこなした上で、プロボノへの参加を検討することになります。このことは、私も頭では理解していたつもりでした。しかし、社員ひとり一人がどのようなニーズ(興味関心やキャリアへの課題感)を持っているのかを十分に理解しようとしていたとは言えませんでした。
二つ目は、発信の切り口が単調だったことです。私たちは社内SNSなどを通じて活動実績を積極的に共有してきました。しかし、その多くは「参加した学生が喜んでくれた」「学びを得てくれた」といった受益者視点の発信でした。もちろん、そこに価値はあります。ただ、組織には多様な価値観を持つ人がいるという当たり前のことを、デザイン上見落としていました。
古典ですがキャリア心理学者ドナルド・E・スーパーは、人が仕事に求める価値には14のバリエーションがあると指摘しています。私たちの発信は、人の役に立ちたいという「愛他性」に価値基準を置く社員には届いていたと思います。しかし、それ以外の価値基準に重きを置く社員に対しては、参画を後押しするほどの情報にまではなっていませんでした。
振り返れば私たちは、「価値のある活動を伝え続ければ、いずれ共感の輪は広がる」とやや安易に考えていたのです。しかし実際には、「社会的によい活動であること」と、「人が行動を起こすこと」は同じではないと気づいたのです。
新たに加えた二つの工夫
この経験から、二つの工夫を加えました。一つ目は、プロボノ研修完了時点の満足度だけではなく、その先に生まれた変化を捉えて伝えることです。そのため、研修実施から数か月後、参加者の様子を支援団体の事務局へヒアリングしています。「イベントで積極的に周囲を巻き込むようになった」、 「ミーティングで自ら提案を行うようになった」、 「仲間を動かしながら、昨年度より早いタイミングから計画づくりを進めるようになった」。そんな具体的なエピソードをお伺いし、後日談として共有しています。
また、プロボノ参加後、数年経って社会人として活躍している若者へのインタビューも実施しています。彼らが今いる場所でどのようにリーダーシップを発揮し、自ら道を切り拓いているのか。その歩みを追い、活動の長期的な成果を確かめようとしています。こうした点を意識的に伝え、例えば「達成」や「社会的評価」を労働価値に置く社員にも響くようにと考えています。
二つ目は、参加の必然性を設計することです。現在は、中途社員向けオンボーディングプログラムに組み込んでいます。我が社の差別化要因は、組織・人材開発プログラムのカスタマイズドデザインとファシリテーションの能力です。そのため、プロボノであっても品質への妥協はできません。一方で、この活動は若手や中途社員にとっての実践的な学びの場にもなります。そこで経験の浅い社員がセッションの一部を担当できるように設計するなど、能力開発の機会にもなるようなアサインを工夫しています。
もちろん登壇にあたっては、経験値が低いメンバーにはより入念な準備が求められます。通常業務をこなした上で、です。しかしプログラム後には、「準備は大変だったが、目の前で学びをどん欲に吸収しようとする学生の姿に感動した」「なぜ自社がこの活動に取り組むのか、あの場に立って理解できた」「次回以降も参画したい」と皆が口をそろえて興奮気味に共有してくれました。活動への巻き込みと社員の能力開発をトレードオンにする設計。その結果、相手への貢献と共に、自身の更なる成長、「能力の活用」に労働価値を置く社員への訴求もできるようになってきたと感じます。こうした工夫によって、プロボノ研修に参画する社員の顔ぶれが変わってきました。
アクティブ・ノンアクションの罠を超える
私たちのような企画屋に求められるリーダーシップとは、活動の価値を伝え続け、仲間を増やしていくこと。リーダーシップとは、相手に働きかけ、心理的な変化を生み出し、能動的な行動を挽き出す(苦労しながら少しずつ時間をかけて取り出すというニュアンス)ことです。活動当初から継続して、活動の意義は伝えてきました。しかし心理的変化を起こせたのは一部で、全員の参画という能動的行動には至らなかった。そこには、「良い活動なのだから理解してもらえるはずだ」という期待とそこへの甘えがあったのだと思います。同じやり方を続けながら異なる結果を求める。そうした状態は、アクティブ・ノンアクションと呼ばれています。
心理変化を起こしていくために、相手の労働価値にまで想いを馳せる。そこに響くような働きかけを行う。簡単なことではありませんが、活動に共感してくれる仲間は確実に増えてきました。
このLESの概念が弊社だけの取り組みに留まらず、組織・人材開発を生業にしている研修業界全体にまで広がる未来を空想しながら、地道に働きかけの工夫を続けていきたいと思います。
*1:2026年6月時点。
参考文献:
・佐藤尚之(2018)「ファンベース」筑摩書房
・佐藤尚之、津田匡保(2020)「ファンベースな人たち」日経BP
(Written by Maruko, Assistant Manager, Planner, Brand Enhance Department)