2026.6.25
任せたいのに任せられないジレンマ
世の中の管理職は「忙しい」と言われています。ある実態調査によると、中間管理職の64%が「日々の業務量が多い/非常に多い」と回答。また、単に業務量が多いだけでなく、心理的・情緒的負荷をも強く感じているといいます。impactで管理職を担っている私としても、上記アンケート結果には共感を覚えてしまいます。
一方で、この「業務量が多い」という認識はどこまでが「事実」なのか。少し冷静に検証してみる必要があるとも感じます。と言うのも、管理職の仕事はメンバーの役割との線引きにおいてグレーゾーンの範囲が広い。「自分がやってしまった方が早い」、「何かあれば自分の責任になる」という無意識の防衛行動や、「メンバーに失敗させたくない」という親心にも似た気持ちなどから、管理職が必要以上に業務を抱え込み、結果として忙しさを生んでいる可能性もあります。
理想の形は、管理職は意思決定や判断する役割に徹し、実働はメンバーに任せることでしょう。そのためには、メンバーへの権限委譲が必要です。ところが、権限委譲そのものも簡単ではありません。「権限は委譲したいが、そこまで部下が育っていない」、そして「忙しすぎて部下育成に時間がとれない」という声は、弊社のマネジメント研修参加者からもあまた聞かれます。そうして、「任せたいが育てる時間がない → 育てられないから任せられない」というループにはまり、また負担感が募る。このジレンマはどのように乗り越えればよいのでしょうか。
育成に必要なのはまとまった投入時間ではない
先述のループには「育成のためには、特別なまとまった時間が必要」という前提が隠れています。しかし、それは真なのでしょうか。上司による部下育成は、あくまでも日常のマネジメントに組み込んで行うことが基本であり、実際多くの現場でもそのように行われていることでしょう。だとすると、日常の業務におけるアサイン時や進捗確認時に、小さくとも成長につながる工夫を加える。これを半年~一年という期間に亘って徹底すれば大きな違いとなって現れるのではないでしょうか。
それを実感した出来事があります。まだ案件を丸ごとは任せられない、営業プロセス全般にサポートが必要な部下がいました。ちょうど私自身もあるクライアントへの大きな提案が控えていたため、指導のためのまとまった時間を確保することができませんでした。そこで、営業プロセスの節目で5~10分の振り返りや助言をするようにしてみた、というよりそうせざるを得なかったのです。例えば、商談前に今日のBEST/WANT/MUSTゴールの想定を確認し、私からはメンバーが担当する部分における期待水準を伝える。商談後には移動しながら、できたこと・できなかったことを事実として振り返り、次の商談でのチャレンジを決める、などを繰り返しました。すると、徐々に商談のゴール設定のニュアンスが揃ってきました。また、ヒアリング時にデザインに必要な内容を網羅できるようになり、それをベースとした課題抽出の精度も上がってきたので、手放しで任せられる範囲が広がっていきました。
後で自分のOutlookスケジュールを確認したところ、これらの指導に使った時間は一か月で2時間にも満たないものでした。ましてや、商談前後の隙間時間で行っているのですから、育成のためだけに費やした時間はほとんどないといっても過言ではありません。人が「育つ」には確かに時間がかかります。厳密に言うと「期間」が必要。しかし、「教えるにはまとまった時間が必要」という思い込みによって、できるはずの小さな工夫もしない思考停止状態になっていたのだと思います。
育成における2つのポイント:「教え込む」と「つまらない失敗はさせない」
この経験以降、大切にしてるポイントが2つあります。一つ目は、ただ教えるのではなく、「教え込む」こと。教えたことをその通りに行っているかを最後まで確認する。もし逸脱があれば、端的に指摘する。認識に誤りがあれば、それを正す。これらを徹底することです。言いっ放しでモニターもせず、問題が起こってから「言ったじゃないか」と叱責するのでは正しい努力につながりません。そしてお恥ずかしながらそうなっていた時期がありました。
二つ目は、失敗には種類の違いがあることを明確にして「つまらない失敗はさせない」こと。心理的安全性の研究で有名なエイミー・C・エドモンドソン教授は、「人を育てたいなら、失敗が起きない環境ではなく、失敗から学べる環境を設計することが必要だ」と力説されています。確かに、失敗からは多くのことを学べます。ただし、単なる逸脱や不注意、方針を正しく理解せずに突っ走ってしまう暴走的な主体性など、非難に値するような「つまらない失敗」をいくら繰り返したとて成長できる訳がありません。本人の実力よりも少しだけ高いストレッチした課題に取り組ませ、結果として上手くいったりいかなかったりする、そういった類の失敗であることが前提です。真剣なチャレンジを後押しするからこそ、部下の成長を促すことができる。これは、正に私の上司が私自身に行ってくれた関わりでもありました。
どちらにも共通しているのが、「ひとかたまり」の与え方です。教え込む内容の「ひとかたまり」が大き過ぎれば、最後まで確認する範囲が広くなり、完了までの期間が長くなるため、結局見切れなくなります。また、「ひとかたまり」の難易度が高過ぎれば、そもそもの能力と見合わないので結果として凡ミスや逸脱を誘発してしまうことになりかねないからです。ジョブ・アサインメントの判断軸である個人の力量(能力・意欲)×仕事の性質(緊急度・重要度)を踏まえて、裁量範囲をどのくらいに設定するのか、白か黒かではなく、どれくらいのグレーの色合いにすべきなのかを常日頃から考えていることが大切なんだと改めて実感しています。
人を通じて事を成す、という管理職の挑戦
私は管理職とは「人を通じて事を成す」お役目だと認識しています。そのためには、部下育成や権限委譲は間違いなくど真ん中にあるテーマ。プレイヤー業務を持ちながらマネジメントを担わざるを得ない状況の中で、いかに最適なプレマネバランスを見出し、部下が育つのを助け、権限を渡していき、チーム全体でのパフォーマンスを最大化していくか。この難題に取り組むこと自体が、管理職である我々自身の成長に直結していると思います。メンバーの成長とマネージャーとしての成功は表裏一体であり、運命共同体とも言えます。管理職になる、とは転職するようなもの。プレイヤーに専念していた時とは仕事の捉え方自体が全く異なります。そんな刺激的なビジネスキャリアに、勇気を持って挑戦しているプレイングマネージャーの皆さんへ、このコラムの内容が少しでもお役に立つようでしたら幸甚です。
参考資料・参考文献:
・管理職の実態調査2025(EVeM)
・ミドルマネージャーの実態調査2024(株式会社mento)
・McKinsey & Company(2023)“Stop wasting your most precious resource: Middle managers”
(People & Organizational Performance Practice)
・Harvard Business Review(HBR)Elsbeth Johnson(2025)“Why Aren’t I Better at Delegating?”
・エイミー・C・エドモンドソン/土方奈美 訳(2025)「失敗できる組織(RIGHT KIND OF WRONG)」 早川書房
(Written by Hosshan, Manager, Business Consulting Department)