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Leadership

【Column】「話せばわかる」が通用しない時、リーダーはどうすべきか

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Published: September 26, 2024
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2024.9.27

組織が新しい施策を推進する際、社内に対して導入の意図や意義を説明するも、なかなか理解してもらえず、摩擦が生じることはよくあります。 

「これまでこうやってきたから、変える必要はない」
「以前も同じようなことを試したが、うまくいかなかった」
「現場の意見をもっと聞いてから進めるべきだ」
「そんなに急に変えてもうまくいくとは思えない」
「今はタイミングが悪い」

経営企画やHRBP、またチームのマネージャーの方も、これまでと異なる施策を進めようとした時、一度はこんな言葉を伝えられたことがあるのではないのでしょうか。

難しいのは、反対意見や批判を述べる側にも、それなりの言い分がある、という点です。上記コメントからは、組織の安定や既存の成功を守ろうとする心理も感じられます。そのため、施策推進経験の多い方にとっては「これらの反応は、組織慣性の現れであり、自然なことだ」との心づもりもできているかもしれません。

一般的には、トップダウンでの断行方式ではない限り、導入推進者(以降、リーダーと記します)は、こうした抵抗の心理を理解しながら言語的な説得を試みることとなります。施策の必要性を、社内に対して丁寧に何度も説明する。しかし、どんなに言葉を尽くしても一向に共感してもらえず、むしろ話は平行線のまま終わってしまった、というお話もよく耳にします。

なぜ、言語的な説得だけでは、組織を動かすことが難しいのか。それは、行動の変更をする当事者にとっては、新しい施策はどれだけ説明されても「やったことのない初めての体験」であることに起因します。人はそもそも損失回避性を持っており、得られるかもしれない利得よりも手にしているものを失うことを2倍高く評価するもの。考えてみると、リーダーの説明だけで、社員が未実施施策の取組の効果を先取りして想像し、共感して、納得・合意することは、なかなかに難易度が高いことです。つまり、施策導入前に、すべての関係者を言語的説得で動かそうとすることには、自ずと限界があるのです。

従って、施策推進プロセスにおいては、適切なタイミングで「説得」から「実行」へとモードを切り替える必要があります。言語的説得から、半ば強制的にでも実践経験を積むフェーズへの「最初のひと転がし」に踏み切るのです。

私自身の経験から、この「最初のひと転がし」には、3つのポイントがあると考えています。一つ目は、ゴール状態に向かう具体的な行動を設計することです。二つ目は、行動するために有効な仕組みを作ること。三つめは、行動を必ず実行し、仕組みを継続すること。特に最後のポイントは、決めたルールに対する不徹底を許さない、と言うことです。過去に、私がマネージャーとして新施策の導入と推進を主導した経験からの学びをご紹介します。

導入しようとした施策は、研修実施直後に行う運営スタッフ全員での振り返りミーティングの習慣化です。目的は、研修プログラムの品質の向上でした。研修が終わった直後に、全員で集まり、その日の出来栄えを確認し、うまくいった取り組みや改善点を振り返る。プログラムの質を高め続けるには、当たり前かつ必須の取り組みですが、当時はそれが全社のルーティンとしては機能していませんでした。

まずは言語的説得を、と社内外の関係者に施策の意味や意義を説明して取り組みを開始しようとしたところ、早速ベテランスタッフを中心に反対の声があがりました。「終了後にも拘束をされるのは、これまでの取り決めと違う」「全スタッフが集まらなくてもよいのでは?」「メールで個々人の意見を集約すれば十分」など様々な異論が寄せられました。恐らく「効果があるのか、よく分からない突然始まった施策のために、追加の時間も労力もかけたくない。勘弁してくれ」との本音もあったのではないかと推察します。

もちろん、私はマネージャーとして、振り返りの目的を何度も伝えました。またミーティングへの参加は、クライアントに価値提供する役割である以上、全員の当然の義務であるとも、丁寧に伝えました。しかし、この施策が打ち上げ花火ではなく本当に継続されるのか、この取り組みで業務品質が必ず向上するのか。こうした疑念については、完全に払拭することはできませんでした。

一方で、これは鶏と卵のような話です。施策の成果や私の意志を感じてもらうには、施策を実行するしかないのです。「気づきを組織に蓄積して、品質を向上していく」ために「業務品質について、研修提供直後に、全員で振り返る」という具体的な行動が必要であり、その行動設計が確からしいとリーダーが考えるのであれば、次に必要なのは「最初のひと転がし」へのモードチェンジです。

ここから、目的のために有効な仕組みを作り、その仕組みを確実に実践するよう、強く働きかけました。ミーティングを短時間で効果の高い仕組みとするために、明確な運営ルールを定めました。具体的には「30分限定で行う」「進行の型化のため、共通フォーマットを用いる」「書記や司会の役割分担を明確に定める」などです。特に「この時間は振り返るのみ。ここでは議論しない」と決めたことは、時間超過を防ぐために効果的に働いた工夫でした。

こうして、全員での振り返りミーティングの場を重ねていくうち、面白いことが起きていきます。あるミーティングで話した業務改善点が、次の研修の場までに変更され、よりよい研修提供につながりました。すると、施策に及び腰だったスタッフから、「やっぱり振り返りは大事だよね」という声がちらほら聞かれるようになったのです。

ジョン・コッター教授の有名な「変革の8ステップ」6番目に「短期的成果を実現する」というステップがあります。「短期的成果」とは、すぐに目に見える小さな成功の積み重ねのことですが、こうした小さな成功が身の回りで起こり続けることで、人は変化を実感します。このチャンスを逃さず、私は振り返りミーティングの成果を社内に向けて大々的に伝えました。「みなさんの挑戦と貢献のおかげで、組織的にPDCAサイクルが回り出し、こんな素晴らしい成果がでるようになりました、この流れを止めずに進めていきましょう」と、この段階で再び言語的説得を行ったのです。

それから数年経った今、この施策はルーティンとして全社的に定着し、様々な改善が生まれる場となっています。そして定着するだけではなく、他のミーティングとの連携活用や場の改善も取り組まれ、進化しています。

このように書くとスムーズに進んだように聞こえるかもしれません。しかし実際の推進プロセスは行きつ戻りつ、でした。特にイノベーター理論で述べられているラガード層(遅滞者:組織全体の16%程度とされる)は、プロセスが進んでも動かないことは珍しいことではありません。このタイプは、新しいものに対する強い抵抗を示すとされ、目に見える成功例があり、それに基づいた言語的説得をしても、不納得のまま非協力的な態度をとる可能性があります。

特に問題となるのは、意図的に手順を守らない姿勢や、都合よくルールを解釈して進めるような行動をとった場合です。不徹底の行動を放置することは、他スタッフから見ると、リーダーがそういった非協力的な態度を容認しているように見え、周囲にネガティブな影響となりかねません。まずは、不徹底を看過しないことが必須。場合によっては、そのような行動には何らかのペナルティを課すなど、強制力発動の検討も必要かもしれません。

ここまで、新施策の導入時には、言語的説得(話せばわかる)の側面と実行に踏み切る(やればわかる)強制的な側面の2側面があり、それらを交互に切り替え、アプローチすることの有効性について、実例を交えてご紹介してきました。前者は心理学系アプローチ、後者は組織経営系アプローチと表現されます(*1)。コッター教授の8ステップで考えても、実務現場においてはそれらステップを交互に、あるいは繰り返し進めていく必要があると感じています。

一方で、このプロセスを一人で推し進めるのは、容易ではありません。私がおすすめしたいのは、同じ目標を共有する上司や仲間、すなわち自身にとっての支援・後援者とタッグを組んで進めることです。前面に立ち、推し進めるのは自身だとしても、次々に起こる難しい状況や悩ましい気持ちを吐露したり、ここが踏ん張りどころだと後押ししてくれる相手がいることは大きな支えになります。私の場合は、上司がその役割を担ってくれていました。まずは、こういった相手を見つけるところから始めることもできるかもしれません。

改めて、新施策の導入においては、抵抗感を持つ人の心情にも認知的共感を示しながら、真摯に対話することがまずは重要です。しかし、この心理学的アプローチには限界がある、と私たち実践者は経験から知っています。そのため、勇気をもった「最初のひと転がし」により、実行に強く踏み込む。そうして参画する人たちの心情に寄り添いながら、心理学系アプローチと組織経営系アプローチを、粘り強く繰り返す。このように、一歩一歩、しかし確実に人々を巻き込み、変革を進めていく。こうしたリーダーシップの発揮こそが、組織にうねりを生み出し、成功への道筋を作っていくのではないでしょうか。

参考文献:
*1:チャールズ・A. オライリー、マイケル・L. タッシュマン(2019)「両利きの経営」、東洋経済新報社

Written by HosshanBusiness Consulting Department:Manager/Facilitator)
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