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Management Development

【Column】戦略人事に必須!?の「根回し」スキルとは

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2023.10.31

人事施策は多岐に渡り、またその守備範囲は昨今ますます広がり、重要度を増しています。人事部門は、採用、管理、育成に関わる施策実施に留まらず、経営理念やビジョンの実現のため、人的資本の活用戦略の策定と施策立ち上げ、そして運用まで求められることも増えてきているのではないでしょうか。弊社にもいわゆる人材開発領域の研修だけではなく、人事戦略を後押しする研修やワークショップのご依頼が増えています。

そうしたなか、新たにカルチャー浸透施策を推進する人事課長の方から、先日こんなお話を聞きました。会議中、ある営業部門マネージャーに「今回の新施策は、本当に意味があるのか?うちのチームの皆、必死で売上を立てようと頑張っている。いつ何の役に立つかも分からないことに時間を使っている暇はない。」と言われたそうです。

そもそも人事施策は、すぐには業績に反映しにくいものです。一方で、全社的な人事施策を機能させていくには、現場の参画は欠かすことができません。人事は、この葛藤の板挟みになりやすい部署といえましょう。そして施策を滞りなく進めるために「現場が大変なときに、申し訳ありません。ただこれは、経営の承認も得て決定した施策です。なんとか現場にも協力していただきたい」といった「お願い姿勢」で現場マネージャーと接してしまう。こんなことはありませんか?かくいう私も、前職の人事マネージャー時代、まさにこの姿勢で彼らに接してしまっていたことがあります。

しかし、人事がそういった対応をとると、周囲にはどのような影響が出るのでしょうか。戦略や施策の理解が甘い現場マネージャーが放置されることに加えて、それ以外の周囲のマネージャーへも、全社視点ではなく、自部署の事情を主張する行動が肯定されたかのように見えてしまう。そして、「人事も経営に言われたからやっているんだな」「問題にならない程度に、施策に乗っている体にしておこう」という認識も生まれてしまうかもしれません。

それを避けるためには、認識が異なっている発言や行動に対しては、人事が瞬発力を発揮して「その認識は違いますね」と即座に正すことが必要になります。しかし、これは「言うは易く行うは難し」ではないでしょうか。施策を推進するために必要とは言え、なかなかシンドイ役回りです。

では、こうした悩ましい状況に対して、視点を変えてみることはできないでしょうか。

つまり、前述のように新たな人事施策のリリース「後」に、反発する現場マネージャーに対処するのではなく、人事が先手を打って、リリース「前」に、マネージャーたちを施策推進者の側に巻き込む。いわゆる「根回し」を活用する方法です。この時、効果的な根回しの方向性は3つあると考えます。

まずは、現場マネージャー全体への根回しです。具体的な方法としては、施策の公式リリース前に、現場マネージャーを対象とした事前の意見交換会を実施することなどがあります。この会のゴールは、「彼らを巻き込んで、施策推進の当事者であることを認識してもらうこと」です。そのため、人事から一方的に情報を発信するスタイルではなく、上記のような役割期待を伝えたのち、「皆さんが自部署でこの施策を推進するとき、メンバーにはどのように説明しますか?」とか、「自部署のメンバーを巻き込む際、どんなことがポイントになりそうですか?」といったテーマで、マネージャー同士で対話をしながら、役割の意識づけがなされるような設計にします。

さらに、あらかじめ予想される意見を洗い出し、FAQを作成しておくことです。そして、そのニュアンスを経営層に根回しして合意を取っておく。最初の意見交換会では、マネージャーたちの施策意図への理解度も様々で、反対意見が出ることが容易に予想されます。質疑応答の場で、人事ではなく経営層の鶴の一声で場を収めてしまうようなことがあると、マネージャーたちのジブンゴト化が進みません。人事が瞬発力を発揮し、共感を示しつつも理路整然と返答するための準備が、その後の施策推進の明暗を分けると言えそうです。

ここまでの対応をしても、なお納得しないマネージャーもいるかもしれません。最後の根回しは、日和見層への個別対応です。施策に強硬に反対している訳ではないが煮え切らない態度をとる方がいますね。そういったマネージャーには、「のらない理由や事情」があるものです。認知的共感を働かせ、相手の事情を理解するよう努め、解決の糸口を探ります。私の感覚ですが、全マネージャーの30%程度が新しい施策にのってくると、その施策は定着に向かっていきます。日和見層への個別対応が必要なのは、ティッピングポイント(転換点)を超えるためという訳です。

ちなみに、「根回し」という言葉の響きは、なんだか日本的で古いものにように聞こえるかもしれません。しかしこのように目的のために、インターナルなネットワークを活用して先手を打ち、周囲を巻き込んでいく行動は、優秀なビジネスパーソンのスキルとして万国共通のようです(*1)。無意識に陥りがちな「経営・人事」VS「現場マネージャー」という対立構造を作り出すことを避け、むしろ戦略推進の仲間として巻き込んでいく、合理的な手段だと言えそうです。

戦略の効果は、戦略そのもののクオリティより、むしろどれだけそれが徹底して遂行されたかが重要です。日本を代表する経営学者である伊丹氏は、その著書の中で「ほどほどの戦略を全員でキチンと徹底して実行する方が、すばらしい戦略を中途半端に実行するより、よほど成果が大きい」と指摘しています(*2)。

組織戦略と結びついた人事施策の遂行は、まさに戦略人事の発揮するリーダーシップに他なりません。今回のコラムが、戦略推進の鍵となる人事部門の皆さんの何かしらヒントになれば幸いです。


*1佐野一機. “マネジャーにとって「根回し上手」は万国共通の必須要件!?”.「ピープルアナリティクス・カンファレンス2017」レポート. ハーバード・ビジネス・レビュー. https://dhbr.diamond.jp/articles/-/4843  (参照日2023-10-29)
*2伊丹敬之.「経営戦略の論理」.日経マーケティングBP社.2012

(Written by Hosshan, Facilitator/Manager, Business Consulting Department)
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