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【Column】リスキリング施策が単なる“お勉強”に終わってしまうのはなぜか

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2023.7.21

日本政府の「5年で1兆円投資」や組織のDX、個人のキャリアなど多方面からリスキリングの必要性が叫ばれています。環境変化の中で多くの企業が、社員が学べる環境や制度を整えることに多くのお金と時間を投資しています。 

導入した環境・制度・施策は、ビジネスへの貢献、つまり実効性があってこそ投資の意味があります。したがって、企業も社員が新たなスキルを使い仕事上の価値を生み出せるよう、スキル習得後の社内兼業や社内異動などの制度を合わせて設けるようになってきています。 

ただ、環境を整えたにもかかわらず、リスキリング施策が社員の単なる“お勉強”に終わってしまうことも現実にはあるようです。学習コンテンツや使いやすいプラットフォームを選別し提供することで、基礎知識の習得をさせることはできたけれども、それを仕事に活かせている社員がどのくらいいるかというと、まだ一部に限定されている、というケースも少なくないようです。 

しかし、そもそもリスキリングとは、個人が「新しいことを学び、新しいスキルを身に着け実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」と定義されています(*1)。つまり、新たなスキルを学んだ、テストをパスした、というだけでは、リスキリングが片手落ちだということです。リスキリングにより社員が新たな価値を生み出すことが重要です。 

では、どうしたらリスキリングを“お勉強機会”に終わらせずにできるのか?施策の企画・推進を担うみなさんの頭の中には少なからずある疑問ではないでしょうか。実はこれは今私自身が当事者として向き合っている問いでもあります。 

実際、企業でのリスキリングはどのようなプロセスで行われているのでしょうか。一般的には、学習プログラムを揃える→学習し理解する→スキルを実践する→アウトプット(成果)を出す、という形式で行われていることが多いようです。重要なのはプロセスの後半部分ですが、実は前半部分で終わってしまうケースが少なくありません。実は、私自身が数年前にデジタルスキルを自部門に導入しようとした際も、まさにこのパターンに陥ってしまいました。人は知識を理解したらできるようになるかというと、必ずしもそうはならないのです。 

実は順序は逆でした。まず、アウトプットしたいことを決め(させ)る。そしてとにかくやり始め(させ)る。その過程で分からないことを解決するためにインプットする(させる)。料理で言えば、作れるようになりたい料理を最初に決める。そのために料理方法を学ぶ。この順序が実は重要です。 

精神科医の樺沢紫苑氏は、いくらインプットしても、アウトプットしなければ記憶として定着することはないと述べており、インプットとアウトプットの黄金比は3:7であると提唱しています(*2)。この「7」の部分を学びのプロセスにどう組み込むかが企画者としてはポイントとなります。最初にアウトプットするものを決めてしまうことが重要です。(そして、今回は割愛しますが、この決めるプロセスを「企画担当者のみで行ってしまわない」こともポイントです。) 

現在、Impactでは、オペレーション担当社員3名がPower Automate(Microsoftの提供するRPAツール)での自動化プロジェクトに取り組んでいます。数年前の失敗経験を学びとして、今は各自がまず自動化したい作業を決め、やる中でわからないことを解決するためにインプットするという形で進めています。インプットの方法は、ネット上の情報、動画、書籍などでの自学自習と、IT専門家による定期的なハンズオン講習会、そして、自学自習期間中に出てくる疑問をやり取りし、1人のつまずきをグループでの学びに変えていくためのチャットグループを用意してやっています。 

スタート前は「これでできるのか?」という心配もありました。予想通り、講習会で習ったことを復習するプロセスで早速つまずくことも出てきました。講習会と講習会の間は実際のところつまずきの連続です。しかし、やり始めてみると、このように自分自身がつまずき、それを解決したいから学習しようとする、という体験をすることが、実は学習したことを使えるようにしていくことにつながってくるのだと感じています。 

そのために、一番のポイントは、「勉強して準備ができてからでないと、新しい領域への挑戦ができないという思い込みを手放す」ことではないかと感じています。企画者としては、学習者にその思い込みを手放させることが大事ですが、そのためには、企画者自身がこの思い込みを手放せていることが必要となります。つまり、私自身がこの思い込みに陥っていたことが今になってみるとよくわかります。私自身が無意識に保持していた過去の学習パターンを手放すことがまず必要だったのです。 

そして、「アウトプットのためのインプット」にすることで、「貢献と学習をワンセットで行う」ことができるようになります。個人にとっても組織にとっても一石二鳥なのです。 

Impactでは「アウトプットのためのインプット」を強調しています。提案書作成、スライド作成、プロジェクト開発、モデルプログラム作成、ブックレビュー、そしてこのコラムリレーも、「アウトプットのためのインプット」が求められます。どうにかしてアウトプットしようとする過程で幾つもつまずく。そのつまずきを解決するためにインプットする。この経験を繰り返し蓄積することで、仕事に使える力がついてきます。 

かくいう私自身も3人で一緒につまずいてはインプットすることを繰り返しています。最初はつまずきばかりでがっかりする時期もありましたが、今は、つまずいたときに学べる仕組みさえつくっておけば、つまずきは自分の脳や手に新しいものを取り込んでいくチャンスだと感じるようになっています。いい年齢になってきている自分にとって、これはとても価値ある考え方の転換でした。 

さて、今回はリスキリングの実効性について、企業が従業員にどうアプローチすべきか、という観点で書いてきましたが、リスキリングが“お勉強”に終わってしまう背景には、個人側の自律と組織との関係性の問題もあるように感じています。このテーマについては、また別の機会に取り上げられたらと思います。 

参考文献: 

  1. 一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 
    https://jp-reskilling.org/whatisreskilling (最終閲覧日:2023年7月19日) 
  2. 樺沢紫苑「学びを結果に変える アウトプット大全」(2018)サンクチュアリ出版p.20, 28-29 


(Written by Sae、Learning & People Catalyst) 
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