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Leadership

【Column】「何を言うか」と「誰が言うか」

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2023.7.21

人事で研修担当をなさっている皆さんには、こんなご経験はないでしょうか。 
事前に研修概要の連絡をメールなどで参加対象者の方々にしっかりお伝えしている。にもかかわらず、研修当日のオリエンテーションで「上司に行け、と言われたからきました」や「正直、何で呼ばれたのか分かりません」という発言が出てきてしまう。 
特に、実務の中核を担っている方々が研修受講者の場合に起こりがちなのではないでしょうか。しかし研修企画者としては、それが受講者やひいては事業の発展に寄与すると考え、良かれと思って設計しているのに、思いがすれ違ってしまう。 

なぜ、こんなことが起こるのか。 

もしかすると、研修受講者の「上司を納得させられていない」ことが要因なのかもしれません。 
実務の中核を担っている社員を研修に参加させるということは、ただでさえ忙しい業務が滞ってしまうという目の前の不利益が発生します。その不利益を超えるベネフィットを上司の方に納得して頂くことができれば、この問題は解決されます。 

しかしながら、仮に明確なベネフィットを示すことができたとしても、「話が通らない」「説得できない」ということが起こります。それは、「何を言うか」ではなく、「誰が言うか」という部分で引っ掛かってしまっているのかもしれません。 

私自身、こんな経験をしたことがあります。 
クライアントに対して、一生懸命に伝えても、どうしても受け取ってもらえなかった提言がありました。ところが、内容はほとんど変わらないのにも関わらず、私の上司がそれをクライアントに伝えたところ、すんなりと話が通ってしまいました。もちろん、私の伝え方の拙さや説明不足もあったかもしれませんが、あまりの出来事にショックを受けました。「何を言うか」ではなく「誰が言うか」で結果が180°変わってしまったからです。後々、これは「信頼」の問題だったのだと思い至ります。 

社会心理学者の山岸俊男教授は、信頼という概念を「能力に対する期待」と「意図に対する期待」に大別しています。「能力と意図」の双方に対する期待を信頼できてはじめて、その人を真の意味で信頼することができると解釈できます。 

つまり、先述のクライアントにとっては、その時の私の能力への期待が低かったため、提言の蓋然性(もっともらしさ)を信頼できなかったのだと思います。自分自身を客観視できていないと視野が狭くなってしまい、「何で同じ内容なのにこうも違うのか」と状況を理解することができなくなってしまいます。結論はシンプル。仕事人として信頼されていないということだったんですが。 

私はこの経験を踏まえて、自分自身の仕事人としての能力を伸ばし、クライアントからの期待を高めていこうと考えていますが、残念ながら一朝一夕に解決できるものではないということも分かっています。 
そこで、もし相手からの(能力への)期待が低いのならば、適切な伝え手に助けを借りればいいんだと考えるようになりました。これはヘルプシーキング行動と呼ばれています。 

すべてを「一人でやらなければ」と気負って抱え込むのではなく、目的を達成するために最適な手段が、自分の外にあるのならば助けてもらえばいい。その助けを探し出すスキルという考え方です。 
私がそう考えられるようになったのは、弊社内でチームコンサルティングという方針が打ち出されているからでした。担当営業だけでは解決できないクライアントのお悩みを伺った際には、一人で抱え込まず、上司や他の営業、ファシリテーターなどに力を借り、チームで解決していくというスキームです。加えて、弊社ではMS Teamsを使用しているのですが、そこに「ヘルプシーキングチャンネル」を設けていて、お互いにヘルプを伝えやすくする工夫もしています。 

さて、研修参加への動機付けに話を戻します。 
せっかく苦労して企画し、導入にこぎつけた研修に積極的に参加してもらえないというのは、とても残念ですし、時には虚無感を感じてしまうかもしれません。研修企画の内容が、研修受講者にとっても事業にとっても有益だと信じていればなおさらです。 

私の拙い経験からも、「何を言うか」と同じくらい「誰が言うか」は重要だと思います。研修効果を高める上では、内容そのものもさることながら、受講者の上司に対する適切な伝え手を選ぶことも、研修企画の一部として重要なのかもしれません。だとすると、その研修の意義を受講者の上司に伝える際には、「誰が言う」ことが最も効果的でしょうか。 

参考文献:山岸俊男(1998)『信頼の構造: こころと社会の進化ゲーム』東京大学出版会 


(Written by Coco、Client Partner) 
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