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【Column】結局、リモートで失われたのは何か

【Column】結局、リモートで失われたのは何か
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2022.06.10

新型コロナウィルスによる社会変化が著しかったこの2年、我々の生活すべてを取り巻く環境が一変してきました。とりわけ仕事への影響は多大なものです。総務省の調査によるとリモートワークの導入はこの2年で倍増し、今後導入予定も含めると6割近くまで達しています(1)。 
しかし急速な導入を余儀なくされたリモートワークにより、雑談機会の減少があちこちで叫ばれています。リモートワークをしている人の8割以上が「雑談がしにくくなっている」、実際に5割超が「減った」と感じている調査結果もあります(2)。 

確かにリモートワークでは一人で仕事を進めることが求められるため業務の分担が明確に分かれることが多く、コミュニケーションがタスクに偏りがちになるのは事実です。そのため、これまで「ついでに」とっていたコミュニケーションは取りにくくなりました。仕事の様子も見えないため声がかけづらいといった状況が発生することもあるでしょう。 

あなたの会社でも「もっと雑談の機会が欲しい」「雑談の場を作るべきだ」という声が聞こえてこないでしょうか。ここで考えていただききたいのは、リモートワークの推進により確かに雑談の機会は失われましたが、果たして私達が失ったものは「雑談の機会」そのものなのでしょうか。 

雑談がもたらしてくれていたものとは何なのか―――――――――― 

天気や趣味の話ができれば生産性が上がるとも、業績が良くなるとも誰も思っていません。ならば、なぜ人は雑談を求めるのでしょうか。それは雑談という機会を通して、社会関係資本(ロバート・パットナム)の要素となるつながり・互恵性・信頼を得ていたからに他なりません。 

OECDではこの概念を「グループ内部またはグループ間での協力を容易にする共通の規範や価値観、理解を伴ったネットワーク」と定義しています(3)。言い換えると、「仕事において何を大事にしているのか」「どんな仕事の進め方を好むのか」などの価値観や仕事観、合わせて「このチームにおいて守るべき暗黙(または既知)のルール」を指します。 
これまではオフィスという場所を介した日々のコミュニケーションの中で私達はこれらを意図せずとも学んでいたのです。「ついでに」とっていた雑談やコミュニケーションの中から、相手の言動の背景にある価値観や仕事観といった文脈を意図せず受け取っていました。暗黙知に潜むチームの規範を知ることは信頼を生み出し、協業の質を高めることに貢献していました。 

つまり、雑談が減ったからと言って何も考えずに「雑談タイムを取り入れよう」と時間やウェブ会議を設定するだけでは期待する効果は得られないのではないでしょうか。特に『雑談』は仕事と関係のない話と定義されやすく、そうしたコミュニケーションだけでは前述した文脈を受け取るのは非常に難しいでしょう。 
大切なのは、「何のために」という目的設定のもと、雑談で「何を話し」「どんな」コミュニケーションを取るのか、ということです。 
仕事に関連する、だけれども目の前の業務の話ではなくもっと大きな価値観やメンバーの考えに触れられる、そうした企図的に設定された雑談が社会関係資本を増資し協業の質を高めるのではないでしょうか。私はこれを”質の高い雑談”と定義しています。 

一説には社会関係資本は目減りすると言われています。意図して増資しようとしない限り、特にリモートワーク下で自然に改善していくものではありません。そのためには、”質の高い雑談”をうまく取り入れる必要があると考えられます。 
雑談タイムをすでに取り入れている人、これから取り入れようとしている人は今一度その目的を見直してみてはいかがでしょうか。 

インパクトでは毎週月曜日の朝に全社員が集まるショートミーティングにて、”質の高い雑談”タイムを導入しています。テーマは毎週変わりますが、個人で掲げているビジョンや夢について、効果的な時間の使い方についてなど、少人数に分かれ15分設定しています。毎週ランダムに様々な人とコミュニケーションを取ることで、業務上あまり関わりがないメンバーともつながりを感じることができます。また、そこで思いがけず業務の進め方にヒントを得ることもあれば、目の前の詰まっているタスクの相談に発展することもあります。これらによって互いに互恵性や信頼を維持・構築し、日々のちょっとした相談などの取引コストの低下に貢献していると感じています。 

こうした取り組みなどから、”質の高い雑談”を効果的にするためのポイントは以下の観点が重要だと感じています。 

1)意図した機会創出 
コミュニケーションに時間を費やすよう求めるだけでは業務に追われるメンバーが自発的に動くことは難しく、リーダーやマネージャーが意図して機会をつくるよう模索する必要があるでしょう。 

2)偶発的な出会いの演出 
オフィスであれば偶然エレベーターで一緒になる、休憩所で隣に座るなど意図しない出会いの場が多くありました。業務上の必然性がない繋がりは、リモートワーク下ではあえて設定する必要があります。 

3)適切なテーマ抽出 
前述した通り、間接的に仕事に関連する雑談テーマの設定は非常に重要です。ポイントは全く仕事に関連性がない話題にならないよう注意することです。 

4)継続的な時間の捻出 
年に1回、長時間を割くのではなく、10分でも15分でも、週単位で定期的に実施することをお勧めします。リモートワーク下においては、コミュニケーションの量よりも頻度を意識することで、よりつながりを感じることができるでしょう。 

リモートワークでも協業の質を高めるために、今のあなたのチームや部署の状況に合わせて社会関係資本を増資するアクションを取り入れてみてはいかがでしょうか。


(1) 総務省(2021年6月18日)「令和2年通信利用動向調査の結果」、https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/210618_1.pdf (最終アクセス日:2022年6月9日) 

(2) 一般社団法人日本能率協会(2021年10月4日)「2021年『ビジネスパーソン1000人調査』【雑談機会と効果】」、https://jma-news.com/archives/5103 (最終アクセス日:2022年6月9日) 

(3) OECD「GLOSSARY OF STATISTICAL TERMS」、https://stats.oecd.org/glossary/detail.asp?ID=3560 (最終アクセス日:2022年6月9日) 


(Written by Woody, Manager, Business Consulting Department) 
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