2026.10.21
業務品質向上のため、メンバーに従来とは異なるプロセスや行動を取るように促す。例えば、管理システムの入れ替えに伴う手順変更から、現場の工程改善、またセールスイネーブラー分析から導いた効果的な営業プロセスと行動の浸透まで、様々なシーンであることだと思います。その際、導入推進者あるいは現場のマネージャーがいくら必要性を伝え、わかりやすいインストラクションを行っても、なかなかこれまでの行動が変わらない。目指す品質の向上までたどり着かない。そんなことはありませんか。
やり慣れた習慣や行動を変える。あるいは慣れない業務を身につけるにあたっては、うまくいかないシーンや、背伸びをしなければならない場面も増えるでしょう。そこには「不快感」が伴い、心理的な抵抗も起こると想像できます。今回のコラムでは、社員がより成果につながる行動を取っていくため、目の前の不快感や、ある種の成長痛を超えるために有効な支援について、考えてみたいと思います。
社員の多くが抵抗を感じる施策の推進担当に
4年前から、私はある施策の推進担当をしています。それは全社員によるコラムリレー施策です。1年にひとり一本、3,000字程度のコラムを書き上げる。このチャレンジングな施策の目的は、自社実践に基づく良質なコンテンツを継続的に作り出していくこと。そしてそのプロセスを通じて、内省を深め、実践経験からの持論を導き、言語化するトレーニングとも位置付けられています。
とはいえ、通常携わる業務によっては、ライティング自体に慣れていないメンバーもいます。そのため、施策の担当者として、彼らの苦手意識に寄り添いながら、しかし一定の期間でライティングを完了できるよう、様々な打ち手を考え、実行してきました。例えば、集合型のライティング講座で必要なインプットを実施。また個別での編集会議で作成方針決めをサポートするなどの地道なサポートを続けてきました。すると社員数20名とはいえ、壁打ち、相談や激励、原稿へのフィードバックなどの工数が多数発生し、一人で捌ききれなくなりました。結果として、ひとり1本のコラムを年度内に完成させる、という目標に届かない年が2年続きました。
当時の私は、基本的には個別でのフォローが有効だと思い込んでいました。なぜなら、各人の現状スキルや業務の繁忙、また書くことへの苦手意識などは個別性が高いからです。そのため、相手合わせた寄り添うサポートこそ、推進には必須だと考えていました。しかし2年連続での計画未達成により、さすがにこの方法の限界を感じました。そこには、寄り添うだけでは超えられない壁があった。そのため悩んだ末、以下の3点を変えてみることにしました。
推進担当もライターも「うまくいかない」不快感を超える3つの工夫
工夫の1点目は、ディレクションの迷いを減らす点、2点目は進捗管理行動を徹底する点、そして3点目はライターに先送りをさせない点です。それぞれ簡単に説明させてください。
まず1点目の改善ポイントは、ディレクション判断のスピード不足です。これは、ライターではなく、推進担当者である私自身の課題でした。例えば水準に満たない原稿案が上がってきた際。「相手に受け入れられるフィードバックにするには」と考え込み、フィードバックを抱えこみがちでした。そんなある日、上司とのカイゼンミーティングで「ライターがスタックするポイントをもう一度洗い出して、ポイント毎のテコ入れ方法を考えてみたら」とのアドバイスを受けました。
それが皆同じなら苦労しない、と思いつつ、アドバイスに従い、具体事象を振り返りツリー化してみました。すると、抽象度を上げると、つまずくポイントは3つに集約できると判明しました。これまで個別で対応するしかないと思い込んでいた私には、これは衝撃的なことでした。また各ポイントについてのテコ入れ案を考えてみると、推進担当者よりもマネージャーがサポートする方が効果的な点も判明しました。あるいはツールを整えるだけで「水準に満ちていないので、この点もう一度ご確認ください」とわかりやすく示せることも明らかになりました。推進担当者がひとりで抱え込んだことこそ、プロセス停滞の要因を作っていたとの気づきとなりました。
2点目の工夫は、ライターの進捗管理方法です。複数名いるライターは進捗がまちまち。人によって書き直し回数なども異なり、ステータス管理が煩雑になっていました。そして、「苦手意識がある中、細かく進度を管理しすぎると逆効果なのでは」との思い込みにより、個別での進捗管理をとっていました。その結果、現状把握に必要以上の時間をかけていました。そのためこのやり方を辞め、全体チャネルでの週次進捗管理へと切り替えました。
この変更に関しては、他施策でも行った週次一覧管理により、社内習慣づけが進んだ取組を参考にしました。事情はどうあれ、まずは現状ステータスを明確にし、見える化する。コラムの進捗につき、「週次のリマインド」とデジタルに現状共有する方法に変更したところ、心配したような大きな反発はありませんでした。同時に以前に比べ、管理工数は激減しました。ここは、個別性よりもフラットにデジタルに、また定期化する方が有効だったのです。
3点目の工夫は、ライターの「着手先延ばし」に対するナッジの取り組みです。同じタイミングからコラムを書き出すメンバーをチーム化し、チャットを作りました。同じく取り組む仲間の進捗や健闘を感じられる場を作ったことの効果は意外とありました。書くこと自体は個人作業ですが、横のつながりで励まし合う形を作り出すことができる。この効果を感じたため、現在はある程度原稿が完成した段での「社内第三者によるフィードバック」のプロセスも設けています。フィードバックをもらう人にフィードバックのアポを送り、そこまでには必ず書き上げる、と自身への期限を設けて有効活用するメンバーも出てきました。
これら3点の工夫により、以前より多くの社員が一つのコラム作成プロセスに関わるように変わりました。その結果、ライティングの停滞は少しずつ改善しています。スタック個所への適切な介入、苦手だからと塩漬けにさせない定期リマインド、そして他者との励まし合いにより、前に進むスピードが上がったと感じています。そして、一番重要な質に関するフィードバックに力をかけられるようになりつつあります。
こうして振り返ってみると、とりたてて目新しい取り組みはしていないと実感します。そして以前は推進担当者である私が、必要以上に個別性を意識しすぎていたとも感じます。当たり前の仕組みの運用を徹底しきる。それだけで、ライターの背中を押す機会が増えている。結果として、前期の納期遵守率は20%近く改善しました。そしてそのことは新しい弾みを生み出しています。
完遂できると、弾みがつく
なかなか進まないプロセスを脱すると、アウトプットとして発信するコラムが増えます。すると、発信に対して反響を受け取るメンバーが増えます。取り組みにやや後ろ向きだったメンバーも、「コラムを送ったクライアントから、こんな感想が届いたよ」との社内共有を受けると、非常にうれしそうな表情をします。自分たちの取り組みをやり切ることが相手の役に立つ。この感覚を掴むメンバーが徐々に増えてきています。すると「次回はこのテーマで書きたいと考えている」とアイディアを伝えてくれるメンバーも出てきました。
アダム・グラントの本に「学習によって獲得される勤勉性」についての記述があります。曰く、学習は、知識があって(すでにわかるから、できるから)安心して実践し、どんどん進歩するといった単線的なプロセスではないとされます。むしろ、知識を得て実践してみても、うまく行かない不快感を伴うことの方が多い。よく聞く「わかる」と「できる」の壁です。そして、その不快感は踊り場のようなもの。しかし単線的な成長イメージだと、その状況は停滞やステップバックしていると感じることすらある。ただ、そこでやめると、うまくできるようにはならない。「もう一度」を続けていくうち、少しだけ進歩する。そして徐々にできるようになり、不快感つまり成長痛を超えていけると言います。
コラムでいうと、「やれば完成するし、読み手に喜ばれる」という感覚を掴むと、次からは自律的にプロセスを活用する姿勢が生まれています。まさにこのことだと感じました。うまくいかないことに焦れる気持ち。それは痛いほど理解できるからこそ、その壁を越える仕組みをきちんと作り、その運用により地道にサポートする。慣れない業務やプロセスを身につける際に起こる成長痛に対しては、それが大きな支援となると強く感じています。
こうして生み出した私たちのコラムが、組織・人材開発に関する様々な課題に日々奮闘する皆様の後押しに少しでもなれば、これ以上嬉しいことはありません。
参考文献:
・アダム・グラント著、楠木健監訳(2023)「HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学」、株式会社三笠書房
・米山 知宏(2025)「両利きのプロジェクトマネジメント」、株式会社翔泳社
(Written by Maruko, Planner, Brand Enhance Department)