2026.3.31
「社員育成はOJT中心に行っている。ただ、現場から『いつまでたっても新人がひとりだちしないのだが、どうしたもんか』『採用を変えたほうがよいのでは』等の声が届くことも多い。どうしたものか」ともいうお話を人事のご担当者から伺うことがあります。
育成がうまくいかない時、新メンバー(トレーニー)の能力に問題がある、あるいはOJTトレーナーである先輩社員(トレーナー)の教え方に問題がある、という点にばかり目が向く。そんなことはないでしょうか。OJT用の業務マニュアル等ツールも用意し、それを伝えるトレーナーも適切な人をアサインしている。それにもかかわらずトレーニーが業務を身につけ、ひとりだちできる日に近づいていないと感じるのだとしたら。もしかすると、トレーニーは「知っている」と「できる」の間にある壁を越えられてないのかもしれません。
失敗するからクリアになる。記憶に残る
私は、過去同じ社内で職種を変えた経験があります。間接部門から、営業部署に異動。OJT期間中に初めてクライアントミーティングにて提案を行いました。もちろん事前に何度もロープレを実施しました。当日は、緊張しながらも「先輩に教わった通りの順番」で資料を説明。説明直後、自分ではスムーズに話せたと手ごたえを感じていました。
しかし後に分かったのは、私の伝え方では、クライアントが最も知りたがっていた情報がほぼ触れられずじまいだったという事態でした。結果としてその日の議論は深まらず、クライアントからの反応も芳しくないまま、ミーティングは終わりました。いただいた機会を十分に生かせなかったのです。
このミーティング後、上司とこの日起きたことを振り返りました。ポイントは、「なぜ、教わった手順通りに進めたつもりなのに、うまくいかなかったのか」という点でした。その時気づいたのは、「営業として、うまく話を進めたい」という欲と「教わった通りに話せば、自動的にうまく行くはず」という思い込みがあったことです。
これらが思考を狭くし、現在のクライアントの関心や優先度を確認するという基本的な行動が不十分になっていました。この手痛い経験から、「まず相手の意向を確認する。前回お聞かせいただいていたとしても、会の始めに再度認識を揃える。そうして話の順番や時間配分を設計する」と意識しています。こうした具体的な行動レベルでの改善や注力ポイントは、実際の失敗経験によってクリアになりました。
失敗を経験し、振り返ることで「意識的有能」へステップアップできる
翻って、OJTでの学びを実務で使えるものにするためには、実際の業務を本格的に始める「前」に、あえて失敗できる機会を設けることが大切なのではないか。そのように感じています。
心理学者デイビッド・コルブの経験学習モデルでも、人は実際の体験から振り返り、学ぶことで、深い理解と応用力が身につくとされています。実体験をあまり伴わない環境でのレクチャーや、先輩がすぐに手を出して正してしまう環境での体験だけでは、トレーニーは「わかったつもり」になることはできても、本人が「できる」状態まではたどり着けていない可能性があります。
業務について概要は知っており、わかったつもりだが、意識してもまだうまくできない(意識的無能)状態のトレーニー。彼や彼女は、業務理解度テストやロープレなどは、合格点を取るかもしれません。しかしやり方は知っていても、実践時にどの観点にどの程度注意を向けるべきか、などの実務的なポイントはまだつかめていない場合もあります。しかしテストには合格している。そのためトレーナーは、「教えたことは伝わったし、意識したらできるだろう(意識的有能)」と認識してしまう。そんなギャップが生まれているのかもしれません。
私は自分の失敗を通じて、「なぜうまく行かなかったのか」「何が理解できていなかったのか」をひとつ具体的に自覚することができました。この気づきは「意識的無能」から「意識的有能」へのステップアップを後押ししてくれると感じます。そしてこうして失敗経験から学びを抽出し、トレーニーがひとりだちすることを支援するためには、OJTトレーナーだけではなく、周囲の関わりが重要だと感じています。
「失敗から学ぶ」を部署・会社全体で支援する
私のケースを振り返ると、うまく行かない時には直属の上司とのOne On Oneから気づきを得ることが多かったです。出来事を振り返り、内省する。そうすると、他の業務にも共通する自身の思い込みや物事の進め方のクセによく気づきました。例えば、焦ると視野が狭くなり選択肢を自ら狭める、得意分野に偏りがちで全体像を見落としたまま進めようとする、焦って相手の話を最後まで聞かずに結論を出そうとしてしまう、などです。こうした点に気づけたことで、それ以降は、突っ走る前に「今、思い込みを発動していないか?」と一呼吸つけることも増えてきました。
これら私自身のOJTでの学びは、次に入社してきた社員向けのOJT設計にも活きています。例えば、業務習得度を測るテストには、あえて「わかったつもり」だと間違えるひっかけ問題を入れています。そして敢えて失敗させる。そしてテスト後には振り返りOne On Oneを設定しています。単にやり方を教えるだけではなく、また失敗経験だけをさせるのでもなく、将来ひとりで業務に取り組む際に活きるポイントを伝えられるOJTトレーニングになるよう、改定を続けています。
またトレーニーの初期段階に感じるもどかしさ、具体的には「わかる」が少なく、なかなか「できる」が増えない焦りもわかるため、トレーニングの節目(テスト合格、ステップアップ時)には全社に明るく広報し、皆からの称賛が集まるような工夫も人事担当者と協力して実施しています。意識的無能から意識的有能へ。このステップを超えていくむずかしさを知るからこそ、出来るサポートがあると思っています。こうして全社的にトレーニーに関わり育成する姿勢は、OJTトレーナーとトレーニーの2者だけでは超えられない壁を乗り越える際の土壌にもなります。
弊社でも、OJTそしてひとりだちの支援については、今なお試行錯誤中です。今回の取り組みが、効果的な支援についての意見交換や議論が深まるきっかけになれば幸いです。
(Written by Coco, Client Partner, Business Consulting Department)